留守番の日はなにをして過ごすの?

何かを感じていた。

本来ならば、直ぐにでも目が覚めるのだが、この時は酒を飲んでグデングデンになっていた。

そうだろう、1人で赤ワインを3本も空けたのだから、酔うなと言う方が無理だ。

 

痛む頭を押さえながら目を覚ますと、両隣には見知らぬ男が2人。

しかも、その2人は、何も身に着けてない。

真っ裸だ。

まだ頭が働いてくれず吐息をついたが、その時にジョンは自分もまた、身に着けてない事に気が付いたのだ。

 

「へ……」

思わず、二度見をしてしまっていた。

両隣で寝ている裸の男2人を見て、自分の身体も。

2人はスヤスヤと気持ちよさそうに寝ているが、自分の頭はズキズキと痛む。

二日酔いだ。

でも、嘘だと思いたい。だから、もう一度目を瞑り開ける。

 

気持ち悪い、吐きそうかも。

そう思い、2人を起こさないようにしてベッドから離れトイレに駆け込んだ。

うん、間違いない。ここは私の部屋であり、トイレだ。

何があったのかを思い出そうとした。

 

レイは、1週間前にフィンランドに行った。

オファーを掛けて欲しいドクターがいる、と言われたらしい。

もうシンガポールでは無くオーストラリアなんだ、と言ってるのにも関わらず、相手は「それは知っている。でも、どうしても」と強く粘られ、行ってしまった。

一緒に連れて行ってくれれば良かったのに、「観光ではないし、留守番よろしく」と言われ、エッチ三昧で身体が動かなかったのも理由だ。

よりにもよって、私が酔っている時を狙ってくるなんて。

 

あ、そうだ。フィルとウィルを呼ぼう。

スマホはバッグの中だが、あの2人が寝ている今がチャンスだ。

すると、トイレのドアの向こうで、動く気配と話し声が聞こえてくる。

「あの栗色は……」

「荷物はある」

「全く、人の部屋を勝手に使いやがって」

「でも、気持ち良かったよ」

「ああ、気持ち良かったな。俺なんて、2回とも中出ししてやった」

「喘ぎ声は艶っぽかったし」

「でも、あいつはノンケじゃねぇ」

「ああ、同類だ。で、どこに行ったのだろう」

「パントリー、キッチン、リビング。ふむ、レイの部屋か?」

「レイって?」

「俺の兄貴だ」

 

2人の会話を聞いていたのだが、その言葉に驚いた。

レイが兄貴って事は、アメリカに行ってると言われてた末の弟か。その弟が帰って来たのか。

もう1人は、その友人ね。

で、もしかして私は、レイの弟と、その友人に寝てる時を襲われ犯されたのか。

 

はあああ……と、心の中で深く溜息をついていた。

シュワルツの事といい、今回の事といい。本当に、私は襲われやすいんだな。どうしてなんだろう

そう思ってると、ドアの向こうでは動きがあった。

「どっちみち、レイには帰ったと挨拶するから、部屋に行く」

「分かった。それじゃ、私は」

「リビングに行ってろ」

「なんでリビング?」

「リビングからだと、キッチンとパントリーが見えるから」

OK!という言葉が聞こえ、2人はドアを開けて部屋から出ていった。

数分後、トイレから出た。

フィルとウィルに、こちらに来て欲しい事をメールをすると着替える。

こげ茶の上下を身に着け、トゥーシューズを履く。手袋も嵌めゴーグルも掛ける。

戦闘準備だ。そうしてると、2人から返事があった。

「ボスが体調を崩してるので行かれない」と、ウィルから。

「王子が許してくれない」と、フィルから。

 

ウィルには「お大事に」と、フィルには「仕事頑張って」と返信して、覚悟を決めた。

なら1人で片付けるか。

レイが戻ってくるのは明日の朝だ。

 

そして、自分用に作った隠し部屋に向かった。

まずはセキュリティチェックだ。

一体、あの2人はどこから入って来たのだろう。

セキュリティ画面を遡って見てると、地下から上がってきてるのが映っていた。

地下をズームインさせては、もう少し遡って見てると、隠し扉から入ってきてるのが見える。

あんな所に、隠し扉があるのか。

これは私のミスだな。自分のミスは、自分で片付ける。

あの扉が、どこと繋がってるのか調べるのは何時でも出来る。

 

コンピュータで、この2人を調べてみる。レイの弟の方は、簡単にデータが手に入る。

Mark、マークね。

こいつは、麻薬の売人か。よりにもよって面倒な。

まあ、良い。で、友人の方は……。

すると、データにアクセスできない。

 

しばし考えた末、王子に連絡を取った。

顔写真を送ると、数秒後、王子はアクセス出来るぞ、と言ってくる。

 

出来ないから、頼んでるのに。

その王子は、こう付け足して言ってくる。

『あ、悪い悪い。私にしかアクセス出来ないんだった』

「この人は、どんな人なのですか?」

『どうして知りたがるんだ?』

「私の住んでる家に、勝手に入って来たのです」

『ほー……。セキュリティが甘いのでは?』

「違いますっ。私の見落としがあって、その見落とした場所から入って来たみたいです」

画面の向こうでは、王子は溜息を付いてる。

『ま、いいけどね。彼は、お前と同じだよ。ニックネームは『真面目バカのメガネ』、そして……

ー え、真面目バカのメガネッ? ボス、誰と何の話をしてるんですかっ!』

フィルの声だ。

『ジョン。フィルは分かったみたいだぞ。

ー ボス? ジョンって、ジョン、あいつと接触するなっ! 昔と違って、今は悪の道に居る。ヤクとガンに手を付けては、指名犯になってる。ヤク漬けになってるんだっ!』

 

その声を無視して王子に聞いていた。

「そのメガネ君の呼び名は?」

『ジョンッ、聞いてるのか?

ー フィル、煩いっ! 呼び名は『ミハエル』だ。』

「ありがとうございます。フィル、仕事頑張ってね。お邪魔しました。」

 

そう言って、PCの電源を落とす。

なるほど、ミハエルに唆されて、マークはヤクの売人になったのか。

私は、ヤク漬けになってる奴に犯されたのか。

 

暫らくすると、近くに気配を感じた。でも、ここは感知される事は無い。

「居ないな」

「別に良いじゃない。どこかに行ってるかもしれないよ」

「荷物を置いてか?」

「さっきの部屋に戻ろう。そしたらヒントがあるかもしれないよ」

「ま、俺の部屋だしな。返してもらおう」

 

煩い奴だな。そう言うのなら返してやるよ。お前には、後でたっぷりとお返しをしてやる。

その前に、こっちのミハエルだな。

ミハエルねえ、ミハエル? 真面目バカのメガネ、ミハエル。

 

ああ、思い出した。

側付仲間か。うーん……、それだと仕掛けているトラップは半分ほどバレルだろうな。

身体能力はどれぐらいだろう。五分五分かな。

 

「ほら、マーク見て」

「なんだ?」

「分からない? あの栗毛ちゃん、戻って来てるよ。あのバッグの位置、少しだが動いてる」

「ふーん。相変わらず洞察眼に観察眼に分析力は素晴らしいよな」

「これ位は、朝飯前。でも、どこに行ったのかは分からない……」

 

あのフィルが、あんな風に言うという事は、ミハエルはやり手だ、という事だ。

トラップの種類と位置を変えるか。

「ああ、もしかしたら外かな」

「外って、見て分かるように木しかないぞ」

「それもそうだね」

ミハエルは部屋を丹念に見ていってる。

 

バンッ!と、トイレのドアを思いっきり開け広げ、中に入っていく。

トイレからシャワーブースまで一通り見て、何かしらの痕跡を見つけようとしているみたいだ。

指名犯ね、なるほどミハエルは私を消そうというつもりか。

「何をイラついてるんだ?」

「どこに隠れてたのかな、と思ってね」

「なに、マイケルは、俺より栗毛の方に心奪われたってか?」

「顔を見られたんだ。消すか、もしくは仲間に引き入れるかしないとね」

ミハエルではなくマイケルね。マイケルという事は、綴りは『Michael』か。ドイツ語ではミハエル呼びだが、英米語ではマイケル呼びだ。

 

2人をそっちのけにして地下に下りると、件の扉の前に立つ。

意を決して、扉を動かし中に入る。コンクリートの様に見えるが、コンクリートに見せかけたトンネルで明かりもないし、何の変哲もないトンネルだった。

10分ほど歩いただろうか、騒音が聞こえてくると太陽の陽が入ってくる。どの辺りだろうと思い、急ぎ足で出口へ行くと、市街地が広がって見える。

その出口から一歩出て、振り返る。

ここはっ……!