甥っ子コンプレックス

20

ベッドに横たわり、シェリーの上に覆い被さったまま言ってやる。

「シェリー」

「私は……」

「君は男より強い時があるよね」

「何よ、それ」

「シェリー、泣きたい時は泣けば良いんだよ。サリーが死んだ時も泣かなかった。悲しければ泣けば良いんだ」

「そっちこそ」

「私は復讐する相手が見つかったからね。まだ泣かない」

「私の復讐相手と同じじゃない」

「全く……、君はいつから聞いていたんだ?」

「んー……、”マドリーヌをエッチしたんだけど逃げ出した”と言ってた所から」

 

最初からじゃないかと思うと溜息が出ていた。

「シェリー、男に守られていれば良いとは言わない。男も女も関係ない。ねえ、シェリー。私の所にヒロが居るんだ。遊び相手になって欲しい」

「ヒロって誰?」

「マドリーヌの子供だよ」

「綺麗な子なの?」

「男の子だから大きくなったらハンサムになるだろうな」

「急にどうしたの?」

「ヒロ1人で可哀想で、シェリーが居るとあいつは喜ぶと思うんだ」

「私はペットか」

「まあ、一度会ってみたらどうだろう。返事はいつでも良いよ」

「そうね。どんな子なのか興味湧いてきた」

ヒロにシェリーを紹介すると2人揃って言ってきた。

「嘘。マドリーヌ様そっくりっ」

「ムッターッ?」

ヒロの口から出てきたムッターという言葉。(おお、ムッターと出てくるほど驚いてるんだな)と、思わず感心していたらシェリーの声が聞こえてきた。

「ん、誰がムッターだって? お姉様とお呼びっ」

「は、はい、ごめんなさいっ」

「素直でよろしい」

ヒロはシェリーに懐いたみたいで、シェリーの足が直るまで側に居た。

「ヒロはお医者さんになるのかなあ」

「なれると良いなと思ってるんだ」

「そっかあ、ヒロならなれるよ」

「ダンケ」

 

いきなりリューゾーの声がした。

「博人様、宜しいですか?」

「え、な、何?」

「守りたい者が居ると、人間は強くなる者なんです。博人様もシェリー様を助けてさし上げたいという思いがあるでしょう?」

「うん。そう思ってるよ」

「それは良かった。シェリー様の為にも、毎日鍛錬しましょうね」

 

その言葉にヒロは即答していた。

「そうだね。僕、逃げない。今まで逃げて御免ね」

「そんな言葉が返ってくるだなんて……。この龍三、凄く感激しています。これからは日々、鍛錬に鍛錬を重ねていきましょうね」

「龍三ったら泣かなくてもいいでしょ」

「毎日ですよ、毎日」

「約束するよ。だから泣かないで」

「それでは道場へ参りましょう」

「ちょっと待って」

「え、言ったそばから」

ヒロはシェリーの方に向いた。

「強くなってくるね」

「毎日しないとなれないよ」

「分かってる。シェリーも毎日大変だもんね。それじゃ、行ってきまーす」

「行ってらっしゃーい」

手を振って”行ってくる”と言ってるヒロに、シェリーも手を振って応じている。

そんなヒロの様子を見てリューゾーも安心顔だ。

ヒロは自分から進んで道場に行く様になった。

リューゾーも一々、私の書斎に注意をしに来る事も無く私も気が楽だ。

これを一挙両得と言う。

 

そんな仄々とした領主の屋敷とは違い、こちらは区域の東の守りであるパトリッシュ候。

区域の西の守りが居ない今、東の守りと南の守りには重圧が掛かっている。どれだけ西の守りに助けられ、どれだけシェリーの父親であるヘル・グスタフォーが必要なのか。

でも、東の守りは全区域を手にしたいという欲があった。もっと欲を言えば領主に、城主になりたいのだ。だが、それは出来ない。出来ないこそのチャンスが今なんだ。

西が居ない今こそがチャンスなのだ。

南には子供は居ないが、三兄弟の結束力が強い。

西には娘だから結婚すればと思ったのだが、肝心の息子カールは放心状態だし。

何があったのか分からないが、とにかく動かないと。

このチャンスを逃しはしない。