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一方、ミハエルは。

 

目が覚めたので辺りを見回す。

病室かと思い、吐息をつく。

自分の身体の異変に気が付き、顔の右耳あたりに手をやる。

迂闊だった。

フィルが居たのにも驚いたが、ウィルまでも居たとは。

あの泣き虫のおチビちゃんが、あんな風に成長してるとはね。

良い身体をしていたな。

あの夜のことを思い出し、もう一度、抱きたい、という気持ちになっていた。

おそらくマークは、フィルとウィルに脅されてヤクから手を洗うだろう。良い金づるだったんだけどな。相手が、あの2人だからな。

 

しかし、ここは何処だろう。入院なんて冗談じゃない。

それに金もない。手当してくれたのなら、それだけでもありがたい。

今のうちに出るか。

そう思い、身体を起こそうとするか動かない。

麻酔か?

いや、麻酔が切れたから目が覚めてるんだ。それならどうして動かないんだ。

 

壁の向こうに、人の気配がする。

ガラッと、扉の開く音がすると声を掛けられた。

「あ、やっと起きたみたいだ。2日間寝てたよ。退院するまで1ヶ月間だからね」

 

その人物を目にして驚いた。

「え……、ヒロ、さ、ま……?」

(2日間? そんなにも寝ていたのか)

今度は違う声だ。

「何故なのかは聞かない。大人しく1ヶ月間寝ておくんだな」

「エド……さ、ま……?」

「金は心配しなくて良い」

「え?」

「フランツに言ったから」

「なっ……!っう」

 

コンコンとノックが聞こえ、ガラッと扉が開くと声がする。

「エド。私に任せてくれるかな?」

誰だ、この声は?

「ハイ、ミハエル。懐かしいねえ、私を覚えてる?」

「え?」

(なんか、このパターンが多いな……)

何も言わず、じっと見つめてると、あっちから言ってきた。

「これ、何だと思う?」

そう言って、透明パックに入れた物を見せてくる。

ああ、くそっ。

コンタクトが外れているので、よく見えない。

「これはね、君の右耳だよ」

え?

 

その人は、続けて言ってくれる。

「今なら、まだ大丈夫だ。付けてほしいと言えば、付ける。片耳だけで良いと言うのなら、これは頂く。どちらにする?」

エドワード様が、その人に聞いてる。

「ユタカ、そんな物を貰ってどうするつもりだ?」

「エド。私は大学ではDNAや遺伝子のゼミを取っていたんだ。同じゼミ連中が、ボスを含め数人居る。それに、この耳には色々なものが血管や細胞に含まれてるからな」

そう言った人は、険しい視線をこちらに向けている。

そこで気が付いた。この視線の持ち主、この人は……。

そう思うと、声が出ていた。

「まさか……、王子? 私に少林寺や銃器の取り扱い等を教えてくれた……」

 

エドワード様の呆れた声が聞こえてくる。

「研究材料か……」

「簡単に言えば、そうだね。で、どちらにする? 私は、どちらでも良いよ」

何て言えば良いのか迷っていたら、こう言われた。

「あと1時間、待ってあげる。考えといてね」

「あの……、身体が動かないのは」

「手加減していたとは言え、背からあばらを避けて、真っ直ぐに腹を突き破ってたんだ。その状態で、すぐには動けないよ。」

「あいつは、何時まで経っても流石の腕前だな。鈍っててもおかしくは無いのに……」

 

そう言うと決めた。

「王子。私はここに居たい。耳は無くても生きていける。もう片方の耳はあるからな」

「そう? それなら、この耳は貰う」

 

エドワード様が、声を掛けて下さる。

「ミハエル。ここに居て何をするつもりだ?」

「王子の、DNAとか、その研究を手伝いたいです」

「ミハエル、見るのは構わないよ。だけど、ここでヤクを売り広げようとするなよ」

「王子には、なんでも筒抜けか。さすが情報通。でも、王子の名を汚す様な言動はしませんよ」

 

すると、王子の口調が変わってきた。

「ミハエル、これだけは言っておく。」

「はい、なんでしょう?」

王子は、にっこりと微笑んできた。

王子、その微笑は眩しい。やはり、この御方は昔と変わらないと思っていた。

しかし、王子の言ってきた言葉は、これだった。

「私を、ミスター呼びする事! OK?」

「は?」

「フィルは、ボス呼びしてくるから、まだ良いのだけど。ウィルとジョンは仕事以外だと、すぐに王子呼びしてくるんだ。いいかい、ミハエル? 王子ではなく、ミスターと呼べ。分かったな!」

 

(いや、その言い方だと、どうしても王子ですよ。)とは言えず、呟いていた。

「王子ではなく、ミスター……?」

「そうだ」

「ミス、ミスった……」

そう呟くと東部に痛みが来る。

「ってぇなぁ」

 

「殴るぞっ!」

エドワード様が、王子を宥めてらっしゃるみたいだ。

「ユタカ、殴った後で、それ言うなっ」

 

「えー! ミスターだなんてっ、ミスターだなんて言えないっ!! 王子の意地悪っ!!!」

と、叫んでいた。

 

 

その頃、こちらも叫んでいた。

「ジョン、今朝の朝食当番は誰だ? 忘れてないだろうな」

「うー……。腰が、身体が動かないのは何故?」

「体力なさ過ぎだな……」

「いいえ、レイが激しいのっ! あんなっ、あんな正常位にバックに座位に口だなんてっ。エッチは一晩につき1回ですっ!」

「だから1回しかしてないだろ?」

「4回ではないですかっ」

 

すると、溜息を吐かれた。

「いいか、ジョン。よく聞いとけよ。エッチのやり方というのは、正常位とバックと座位と口の4本で『1回』というものなんだ。これは、普通なんだ。まあ、他の手もあるが……。今は、この基礎である4本で我慢してやってるんだ。分かったか?」

今迄は、正常位で我慢してたんだ。

 

レイは、ぽんぽんと優しく背を叩いてくれるが、ジョンは素直に頷けない。

「嘘でしょ?」

「本当だよ」

「嘘だ……、絶対に嘘だっ! 誰か、誰か嘘だと言ってくれーー!」

「煩いよ、ジョン。そうやって叫ぶ気力があるなら、もう1回出来るな」

「え、まだやるの?」

「もちろん、朝の一発だな」

にっこりと微笑んでくるレイが、デイモス(悪魔)に見えてきた。

 

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