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隊から外に出るのは2ルートある。

1つは、そのまま真っ直ぐ外に出るルートであり、もう1つは宮殿を経由して出るルートだ。

4人が取ったのは、後者のルートだ。

なにしろ、この4人は強いので、宮殿の警備にも携わっているのだ。

 

交代の時間が来る。

その時間を利用したのだ。

最も手薄になる時間だ。

 

グズはレースの大判カーテン2枚と王家の紋章を奪い取る。

リンは果物とレースの大判カーテン2枚。

ウォルターはパンと薄地の布袋。

バーンズは飲み物と厚地のテーブルクロス。

 

誰にも気付かれず、空港へ着く。

真っ先に果物とパンと飲み物で腹を満たす。

そして、それぞれが奪い取った物で身を整える。

 

グズはレースのカーテンをグルグル巻きにして、踵が隠れる位の丈にする。その上から薄地の布袋の底にナイフで切り取り穴を開け、頭から被る。持っていたペンダントを首に掛け、紋章は胸に付ける。

そのペンダントは、イタリアに来る時に、お母様から手渡された物だ。

「王家の紋章と、お母様の印が付いてるから、持っていなさい」と言われ持っている。

 

お母様、私は日本に帰ります。約束の5年も終わりに近づいてるから。

もう二度と来ない。

あの男は、私からお母様を奪い結婚しただけでなく、お父様のフルートを壊し、私を隊に放り込んでくれた。でも、そのお蔭で、私は仲間を得ることが出来、武術やIT関連や銃器等を会得することが出来た。

 

そして、皆もレースのカーテンでグルグル巻きにして、隊の制服をお洒落にする。

用意が出来た所で、グズは3人に、こう言った。

「芝居をするから」と。

 

グズは空港のスタッフ達に向かって、人懐っこい笑顔を振りまき、流暢なイタリア語で話し出した。

「私は、イタリア王妃の子どもだ。証拠が欲しいって? この瞳に髪の色をよく見て。それに、このペンダントもだ。お母様に連絡を取っても構わない。パスポートも見る? それに、彼等は2人共私の警護をしている。一緒にシンガポールに向かう。行先は日本。イタリア王妃に、連絡を入れても良いよ。『貴方の子供は、約束通り日本に戻る』とな。それと、もう一人。彼はドイツに向かう。その手配をよろしく」

 

グズがイタリア王妃と言う言葉を連呼したお蔭で、イタリア王妃は1人で空港に来た。

王妃はグズを見るなり、抱き付いて来た。

「ユタカッ! ごめんね、ごめんね。お母様を許して、とは言えないけれど……。ごめんね。こんな目に遭わせてしまって。本当に、申し訳ない事をしたと思ってる。ここに連れて来なければ良かった……」

「約束は5年間だからね。帰るから」

「そうね……。日本に帰っても元気でね。貴方のお父様に伝えて。御免なさいと」

「大丈夫だよ。私は色々な経験をさせて貰った。あそこに居た3年半は辛い事もあったけれど、仲間も出来た。その仲間と一緒に、ここを出るんだ」

「ユタカ……。もう、お母様とは言ってくれないの?」

「……王妃様。貴方の子供は、4歳になられる女のお子様と、1歳になられた男のお子様だけだ。私の事は、死んだと思って欲しい。もしくは飛行機事故で亡くなったと」

「ユタカ。私の血を継いでるのは、紛れもない貴方だけよ。それに、あの2人は私には似てないから。ユタカ、これを……」

 

手渡されたのは、護身銃だ。

「要らない」

「持っておきなさい。いずれは必要になる。それにね、ユタカ。貴方は、イタリア王子よ。誰が何と言おうと、貴方はイタリア王子よ。忘れないで、貴方は、この私が生んだ王子よ!」

 

空港のスタッフから声が掛かる。

「王妃様、王子様のご出立の準備が整いました。」

 

その言葉を耳にした王妃は、立ち上がると背を伸ばす。

「ユタカ、帰りなさい。それは、母だと思ってくれれば良いから。形見だと思って持ってて」

「……短い間だったけど、お母様と呼べる時間を過ごせる事が出来て、嬉しかったです。さようなら。そして、お元気で」

「ユタカ……。その恰好、良く似合っててよ。さすが私の王子」

「ふんっ、私を誰だと思ってる」

 

イタリア王妃は微笑みながら跪くと、息子の手の甲に口づけた。

まるで、臣下のように。

「ユタカ。私のユタカ。貴方は立派な王子よ。神の御加護がありますように……」

 

バーンズとウォルターとリンは、本当にイタリア王子だったんだ、と驚いていた。

バーンズは、別れ際に教えてくれた。

「王子様だとは全然思わなかったよ。だけど、仲間として教えておく。私のフルネームは、『アダム=バーンズ・フォン・パトリッシュ』。ドイツでは有名な名家だよ。グズ、アレは有難く貰っとく。日本でも元気でな」

その時に、バーンズは護身銃を贈ってくれた。どこに隠し持っていたのやら。

 

「バーンズも元気で」

アダム=バーンズは片手を上げると、さっさと1人でドイツ行きの飛行機に乗って帰国した。

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