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ある日。

長女マドリーヌの婿が、ある男と一緒にドイツにやって来た。

子供であるヒロを迎えに来たみたいで、その時、自分の弟だと紹介してくれた。

その男は、私の執事の子供を見つめていた。

 

別室で、私は婿に話を持ち掛けた。

「自分の亡き後は、長女の子供であるヒロにしようと思っている」と。

即答だった。

「自分の跡継ぎにするつもりでいる」と。

でも、考えておいて欲しいと言うと、帰国するまでには返事をすると答えてくれた。

 

どうか、考えを改めて欲しいな。

そう願っていた。

 

数日後、それは起きた。

その婿と一緒に着ていた年の離れた弟は、私が留守の間に執事の子供のフランツと遊んでいたらしい。屋敷内をバタバタと子供の様に遊び回って、ある部屋に入ってしまった。

その部屋は『御』の公務室だった。

レッドカーペットを敷き詰めた奥には『御』の椅子。

その椅子に座ったらしい。

 

その2人を見つけたのは、ホワンだった。

「失礼します。……誰だ、お前はっ」

 

詳しくは知らない。

その2人は執事から説教されたという事は、後から聞いて知ったのだ。

 

私は、もっぱら新しい事業として医療に力を入れていたせいで、あまり公務室に居なかった事もあり、座る事は殆どなかった。

その男が、再び、その部屋に忍び込んで、ある事を采配していただなんて知る由も無かった。

 

ついに、長女の孫が日本に帰国する日が来た。

婿は、私に返事をしてきた。

やはり、自分の跡継ぎにする、と。

 

やはり無理だったか。

「それなら、ある土地を持っているので、それをプレゼントさせてくれ」

と言うと、彼は「ありがとう。病院を建てるつもりでいるので、その場所にさせてもらう」と言ってくれたので、嬉しくて安心した。

 

バイオリンをこよなく愛する私の孫。

柔道や合気道を主にして、帝王学やフォン・パトリッシュの家系史等も含め、言語に色々な勉学を師事させてきた。

それらが、ヒロの今後を作ってくれることを祈っている。

もう会う事は無いだろう。

そう思うと、私はヒロに言っていた。

「君には従兄が居る。君の近くに、リョーイチとキョージが居るから、仲良くしてね」

ヒロはロシア語で返してくれた。

「はい。お世話になりました」

 

私の得意なロシア語を、この孫は自分から教えて欲しいと言ってきた時は驚いたが、それでも嬉しかったのを覚えている。

ありがとう、ヒロ。

 

彼等が帰国して半年ほど経つと、ある男1人でやって来た。

長女の婿の弟だ。

その男は、私に言ってきた。

「フランツが好きなので一緒に居させて欲しい」

 

何を言ってるのだ、この男は。

すると、とんでもない事を言ってきた。

「貴方の後は、俺が継いでやる。心配しなくて良い」

「な、何言って」

怒りが湧きあがり、それ以上、何も言えなかった。

しかも、タイミング良く執事が、執事見習いの息子フランツを連れてやって来た。

フランツが驚いているのを見て、確信した。

この男は、フランツに何も言ってなかったのか、と。

「何故ここに?」

「フランツ、会いたかった」

その男はフランツを抱きしめていたが、フランツは焦っていた。

そうだろう。

目の前には一族のドンである『御』と、執事である自分の父親が睨んでいるのだから。

 

仕方なく、テストと称して男にチャンスを与えてやった。

及第点だな。

でも、このパワフルさは見習うものがある。

その時、私は気が付いた。

この男なら、ヒロとも血は繋がっている。

きっと、あの子を『御』にしてくれるだろう。

でも、この男は帝王学を学ぶ必要がある。

最も信頼のおける2人に、帝王学を仕込んで欲しいと願った。

その2人は、その男と同じ日本人だ。

文壇のワダと、武術のリューゾー。

 

そして、10年もの間、その男は帝王学を学ぶ為にドイツに居た。

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