風に乗って、微かに聞こえてくる。
2人の声が。
1人は気配がするが、もう一人は気配がない、声だけだ。
3人は一斉に目を開けた。
昔は、『御』の為に殺っていた。
だが、今回は違う。
ジョンは、レイの家を守る為に。
ウィルは、レイとジョンを守る為に。
フィルは、ジョンとウィルを、そしてシンガポールの病院で室長をしていたミスターの家を守る為に。
かつての仲間を、敵とみなして動く。
ジョンには、この2人が、なぜそういうポジションなのかは分かって無かった。
当然ながら、今でも分かって無い。
なぜなら、それがジョンの立ち位置であり、『泣き虫』という所以だからだ。
だが、敵もさる者。
なにしろ、同じ側付として『御』に仕えていたのだから、それもそうだろう。
何かを感じ取るはずだ。
気配は迷う事無く、まっすぐに玄関へと移動している。
微かな衣擦れの音も、同じ様に移動している。
その後姿に、ウィルは声を掛けた。
「ハイ、ミハエル。久しぶり」
ミハエルは振り向くことも無く応じてくる。
「誰だ?」
「私だよ、忘れた?」
「どこかで会ったかな?」
「もちろん」
玄関先から声が掛かってくる。
「マイケル? どうかしたのか」
「何でもない。今行く」
「へー、マイケルって言うんだ。ミハエルでは無くなったんだね」
ミハエルは、ウィルを無視して玄関に向かうので、次は私の番だ。
「ハイ、ミハエル。元気?」
ため息をついて、今度はこっちを向いてきた。
「今度は……」
いきなり大声をだしてくる。
「あっ、マーク、居たぞ!」
「おや、私を探してたのかな?」
「ああ、そうだよ。あんたの体が忘れられなくてな。なあ、仲間に入らないか?」
「どんな仲間?」
「ふふっ。快感が味わえる仲間さ」
「どんな快感?」
「一言では言い表せないな。この世の至福……、嫌な事は忘れられる」
「好きな人とエッチ出来る?」
「ああ、もちろん。好きな奴も仲間にすれば良いさ」
「気に入らない奴は?」
「消しちまえば良い」
「ふーん……、こうやって?」
短剣を忍ばせていた左手を、ミハエルの腹に突き出す。
手応えはあった。
「あれ、もしかして突き刺さった? ごめんね、救急箱持ってくる」
「要らない」
「え、でも……」
「あんたがキスをしてくれれば、それで治る」
「はあ? 何言ってるんだよ。きちんと手当をしないと」
「大丈夫だ。あんたの唾液が治してくれる」
腕を掴まれ抱きかかえようとしてくるミハエルに、ウィルは手刀を決めていた。
「ぐっ……」
「私の大事な人に手を出さないでくれる?」
「はっ。遅いぜ、既に抱いたからな。良い身体をしてたよ。1回だけでは足らずに、2回してやった。なあ、名前教えて?」
そう言われ、こう応えていた。
「ミハエル。私達は昔、出会ってたんだよ」
「何のことか分からないな」
その時、玄関の扉が開き、フィルが入って来た。
「さっきの奴は、庭でネンネさせてやった」
その声と言葉に、ミハエルは玄関の方に振り向いた。