いつの間にか、フィルは長剣を、ウィルは短剣を手にしていた。
フィルの長剣は血が付き、ウィルの短剣にはどこかの肉がぶら下がっている。
一体、この一瞬で何が起きたのだろう。
それに、さっきミハエルが言ってた言葉が気に掛かる。
「……フィルとデイモスに次ぐ、力の持ち主のウィル」とは、どういう意味なのか?
「死んではない。致命傷ぎりぎりか……。まあ2人とも腕は鈍って無いという証拠だな」
いきなり声が聞こえ、思わず振り向いてしまった。
そこには王子が居た。
思わず、私は呟いていた。
王子……、何時から。
先にフィルの声がした。
「当然だ。誰が即死させるもんかっ」
次にウィルの声だ。
「片耳が無くても、人間は生きられる」
私は、こう言っていた。
「こいつが死んだら、ここを掃除して片付ける奴がいないからな」
ウィルが、私の頭を優しく叩きながら抱きしめてくれる。
「……昔とは違って、泣かなくなったな」
その言葉に、フィルが応じている。
「泣きそうな顔してるけどな」
私は、これしか言えなかった。
「人間、少しは成長するもんだよ……」
ウィルは、私を壊れ物を扱う様に丁寧に優しく抱きしめてくれる。
「そうだね。でもね、ジョン。そうやって泣くことが出来るのは良い事だよ。……ドイツでは、辛い事だらけだった。でもね、フィルと私には……。ジョン、君が居た。だから私達2人は人間である事を望んだんだ。私は卒業し、フィルはシンガポールへと。それにね、泣きたい時は泣けばいいんだよ」
「ありがとう」
と言って、私はウィルの背に腕を回し抱き付いた。
ウィルは黙って私の背を優しく叩いてくれ、フィルは私の頭を撫でてくれる。
その2人の優しさや想いが少し分かった気がした。
そう言えば、この2人にはずっと抱かれていて安心感を貰っていたのを思い出した。
なぜフィルに思いを寄せていたのかも。
いつまでもウィルに抱かれては駄目だ。それに、レイとの約束を思い出した。
そのウィルの腕から抜けながら、フィルに声を掛ける。
「フィルもありがとうね。私はね、ウィルよりもフィルの方が心配だったんだよ」
「何が?」
「コンピュータばっかりで、ジャンプも剣も銃もカンや腕が鈍ってるだろうな、と思ってたんだ」
それを聞き、ウィルと王子は笑ってるが、フィルは怒ってるみたいだ。
「お前ねー、誰に向かって言ってるんだっ!」
「フィルにだよっ」
とアッカンベーをして、外に駈け出した。その後を、フィルの声が追いかけてくる。
「待て、このやろっ」
フィルに追いかけられ、追いかけっこが始まった。
そのうち、ウィルも追いついてくるとフィルに言ってるみたいだ。
「あのね、実は私もそれが気になってたんだ」
「ウィル、お前までも言うかっ」
「こっちにおいで。ベロベロベェー」
ウィルは、私と違う方向に走って飛んでいく。
「フィル。私はこっちだよー」
私と同様に、ウィルもフィルに声を掛けてる。
「ほらほら、こっちにおいでっ」
「お前等、2人とも取っちめてやるっ!」
そんな3人を見ながら、王子は溜息ついて呟いてる。
「相変わらずの仲の良さだな。で、こいつをどうしてやろう……」