4人の幼き戦士

19

ここは『無』の世界。

やっと来たみたいだ。

「マルク、待ってたよ」

「誰だ?」

「分からないみたいだな……」

「誰だ?と言ってるんだ」

「お前は……、誰に向かって睨み付けてるっ!」

 

アダム=バーンズは、マルクに気を飛ばす。

吹き飛ばされたマルクは死んでるので痛みも何も感じない。

だけど、雲に激突したままの体勢でマルクは睨み付ける。

「何をするっ」

「それは、こっちの台詞だ」

「あ?」

「よくも、私に毒を盛って刀で腹を切り開いて、銃で撃ってくれたな」

「何の事だ?」

「お前の死に様は見させて貰った。見事なまでに爆発したよな」

「一体、何を……」

「お前は、どうしてあんな事をした? お前にとって、あれは生き延びる為のものだったのかっ? 必要不可欠だったのか?」

 

だが、マルクは釈然としない表情だ。

そんなマルクにバーンズは業を煮やした。

「お前を殺人者にする為に、マリアは生んだわけでは無い。お前が生まれた土地がイギリスだったから、お前はイギリス人となったんだ! マリアは信じていたよ。お前の笑顔が、全ての人を癒してくれる事を。それがっ! 自分の思い通りにならないからって、直ぐに銃を撃つだなんてっ……」

 

マルクは、なんとか一つの結論に至った。

「ああ、思い出した。あんたが、私の実の父親か……。言っておくが、実の親より育ての親、という言葉があるんだよ。私は、私に利をもたらしてくれる人を好んでいるんだ。あんたは死んだんだ。過去の人間が何を言っても、遅いんだよ」

「ならば、毒だけでなく刀や銃をも使うって事か」

「刺客を送り込んでも返り討ちにあってたからな。誰に殺されたのか分からないし。それに医療に力を入れてるから、薬や毒は、しこたま蔵にあるからな」

「あれは、側付に使う物だ」

「みたいだな。で、なんで知ってるんだ?」

「最初に医療に力を入れてたのは、私とユタカだ」

「ユタカ……」

マルクは目を細め考えてるので、アダムは教える。

「イタリア王子だよ」

「ああ、あのイタリア王子ね」

 

それを聞いて納得したマルクは、突然に態度を豹変した。

「父親面しても遅いんだよっ」

そう言いながら、マルクは銃を撃ちだした。

しかし、アダム=バーンズも死んでるので当たる事は無い。

それに、人殺しとしての経験値は父親であるアダム=バーンズの方が上だ。

 

「最初に手を出したのは、お前だからな」

そう言って、バーンズは、ある構えを取った。

しかし、文武の文壇の方に才を出していたマルクには分からなかった。

そうだろう、その構えはリンが得意とする手刀と八卦掌のコンボだからだ。

 

銃は当たらないが、拳や気だと当たる。

痛みは無いが、それでも相手には当たるのだ。

 

それを、途中から入ってきた人物は傍観している。

今は、まだ手を出す時では無いと思ったのだろう。

そう、マルクと共に爆死したアランだ。

 

「今度は親子での遣り合いか」

そう呟いたアランにマルクは気が付き、命ずる。

「デイモス、命ずる。あの男を」

 

「ハッ!」

 

微かだが、マルクの注意がそれ、一瞬の隙が生まれる。

その隙を、バーンズは見逃さなかった。

死んでいるのにも拘らず、バーンズの力は予想より遥かに強かった。

何しろ、異名を持つ程の力の持ち主だ。

『金のタイガー』は、死しても強い事を証明した。

 

 

マルクは、自分の父親がどの様な人物なのか知らなかった。

それもそうだろう。

バーンズの過去を知ってる者は、国外に居るのだから。

 

「マルク。この『無』の世界では転生は出来ない。これからも、親子喧嘩するからな」

 

そのバーンズに、アランが口を開いてくる。

「バーンズ様、御強いですね」

「ふんっ。私を誰だと思っている」

「さすが、『金のタイガー』と謳われてる御方だけあります」

 

それは嫌味もなく、純粋に羨む表情で紡がれた言葉だった。

イタリアの隊で過ごした経験は、どんなに年月が経っても身体に染みついている。

アダム=バーンズにとってアラン達の側付20人は、可愛い子どもであり、隊での後輩だ。

イタリアの隊は、アラン達20人が最後の隊員だった。

あの国王が死んでから、国は崩壊した。

ユタカはイタリアを継ぐつもりは無いみたいだし、それでも良いと思ってる。

それに、人とは無理矢理に強制で継がれても、潰れるのは目に見えている。

 

マルクは暫らくは起きてこないだろう。

今度は、何処に行こうかな。

 

リン、君の所に行ってみよう。

君も『黒の豹』という異名を持つ程の力のある人だ。

同じ『無』の世界に居るだろうな。

 

感覚を研ぎ澄ます。

そして、昔のリンの顔を思い出す。