甥っ子コンプレックス

私には最も愛する女性がいた。

姉2人と妹に挟まれ、その一番上である長女のマドリーヌ姉様だ。

最もお母様に似ていて、大人しく立ち居振る舞い等も美しい。

物心がついた頃には、お父様が居ないので私がフォン・パトリッシュを背負っていくと決心したほどだ。そんな私をマドリーヌは見ていてくれたのだ。

「マルク、そっちに行っては駄目よ」

「僕も、皆と一緒に遊びたい」

「なら、私と遊びましょ」

「マドリーヌと? うん、良いよ」

 

一緒になって泥まみれになって遊んでいた。

マドリーヌは見かけは上品だが、中身は元気なおてんば娘だ。木登りしたり犬の躾け方、人間の善悪の区別等はマドリーヌに教えてもらっていた。

服が破れたり泥まみれになったりする度に、お母様に怒られていた。

「あなた達は2人揃って何やってるのっ」

2人して「ごめんなさーい」と言って、自分の部屋に戻っていたものだ。

 

マドリーヌと年が離れていたせいか、ふと気が付けば結婚話が持ち上がっていた。しかも、相手はイギリス人。何故、どうしてイギリス人なんだ。私が一番忌み嫌う人間だ。

4人の内、僕だけがイギリス人。それを嫌っているのは、直ぐ上の2番目の姉のナンシーと妹のクララだ。

ドイツのフォン・パトリッシュにイギリス人は必要ないと僕を蔑んでいる。

イギリスの領土で生まれたが故のイギリス人。

お母様のバカ、どうして僕だけイギリスの土地なんだ。

どうしてなんだっ。

 

ある日、マドリーヌは僕を抱っこしてくれた。

「ねえ、マルク。私は好きでもない人と結婚したくないのよ。マルクは男だから、ここを継ぐ為に色々と結婚話がくるわよ」

「マドリーヌ、僕は」

「約束して。好きな人としか結婚しない、ってね」

「うん、約束する」

その言葉に、マドリーヌは微笑んでくれた。

結局、その結婚話は流れた。

そして、マドリーヌはフランスやオーストリアに遊びに行くようになった。

 

そんな時、お父様が20人の子どもを連れて帰って来た。

なに、今更父親なんて必要ない。

急にやって来て「はい、そうですか」と素直に認めるとでも思ってるのか。

 

その20人は別邸で過ごさせるという事だったので、まだ良かったのだ。

でも、その20人は文武に長けていて銃器も扱えていたので、その練習の様子をこっそりと見に行っていたものだ。

文武の武術の方で師事しているリューゾーの声がする。

「マルク様、よろしければお姿を見せて下さい」

 

その声に、僕は(さすがリューゾー、抜け目ない奴だよな)と思いながら、姿を見せた。

「マルク様。よろしければ、彼等に声を掛けて頂けませんか?」

「どんな風に?」

「マルク様が成人された暁には、彼等は『御』のみならず、マルク様の側に付いて、主人である『御』とマルク様を攻撃から護る事でしょう。それに、今は、その練習をしてるのです」

「ふーん、すごい練習してるんだね」

「もし、よろしければ」

 

そう言われ、僕は20人を前にして声を掛けた。

「いいかい、皆。人を殺してはダメだよ。人殺しの人間は、死んだら地獄には行かないんだ。どに行くと思う? よく聞いて。そういう人はね、『無』になるんだよ。『光』にも『闇』にもならない。 まったくの『無』になるんだ。だから、決して人殺しにはならないでね。僕からのお願いは、それだけだよ」

「マルク様、それは、どういう意味ですか?」

「言葉通りだよ。攻撃されてる主人を庇って撃つのは構わないが、その攻撃者を自分から撃とうとしない」

「先に手は出さない、手を出されたら撃ち返せという事ですね」

「そう、それだよ」

「ありがとうございます。立派な、お言葉を掛けて頂き嬉しいです」

 

そう言うと、リューゾーは皆の方に向いた。

「今、ジュニアが仰られた事を胸に刻んで特訓するように。それでは、続きをはじめっ」

20人の中でも、優しい目をしている子もいれば、戦いには不向きだろうと思える子もいる。

だけど、その20人は強かった。

だから、見かけが優しそうで強いのを見せつけない子を選んだ。

一番のお気に入りはフィルとジョシュアだ。

この2人は、本当に強く、心の優しい子だった。

だけど、戦いとなると豹変する。

本当に一番強いのはウィルで、フィルとアランは互角と言える程の強さを持ち合わせて、ジョシュアは3人に次いで強かった。