甥っ子コンプレックス

ある日、マドリーヌは話し掛けてきた。

「私、お腹に赤ちゃんがいるの」

突然の事で、暫らくの間は何も考えることが出来なかった。

だって、直ぐ上の姉と末っ子の妹は早くに結婚して子供もいるのだが、マドリーヌにはあれ以来なにも音沙汰が無かったからだ。マドリーヌは微笑みながら声を掛けてくる。

「マルク、喜んでくれるよね?」

「え………」

「何を呆けっとしてるの。あなたの甥っ子か姪っ子が生まれるのよ」

「誰の」

「なあに?」

 

そんな幸せそうな微笑を向けないでくれと願いながら聞いていた。

「誰の子供だよっ」

「私と、私の愛する男性との2人の愛の結晶よ」

 

マドリーヌの幸せそうな優しい微笑は、その目には、もう僕の事を映してなかった。

「さ、な……」

「え、なあに?」

「ゆ、許さない」

「マルク?」

「結婚も、子どもも許さないっ」

「そう。お父様とお母様は?」

2人は同じ事を言っていた。

「いきなり言われても……」

 

そうだよ。いきなり言われても困るんだよ。

急な事で頭が働いてなかった。いつもの様に4人揃って食事したりお喋りしたりしていたからだ。

そんな素振りだなんて少しも見せなかった。

だが、数ヶ月後、いきなりマドリーヌは姿を消した。

居なくなったのだ。

 

お父様に聞くと「分からない」と一言だった。

まあ、あんたが知ってるとは、これっぽっちも思っても無いよ。

だけど、お母様は違っていた。

「安定期に入ったからね。旅行に行ったのよ」

「旅行って、何処に?」

溜息吐いて返してくれる。

「あの旅行好きは、どうしても直らないわよねえ」

いや、知ってる筈だ。

だが、悲しいかな。僕は、まだ学生だった為、探しに行く事は出来なかった。

 

無性に腹が立ち、お気に入りの側付6人を連れて狩猟に出かけた。

一番お気に入りの側付はフィルとジョシュアの2人で、次いでマティアス、シャルル、ヘンリー、ニコライ。

この6人さえ側に居れば良い。

 

繁みの向こうに居るのは分かっている。

逃げられない様に足先を狙い、地面すれすれで撃ってやる。

 

ズキューンッ…!

 

手応えはあった。

すぐさま獲物の皮を剥ごうとナイフを手に繁みに分け入った。

すると、シカや小動物ではなく人間だった。

しかも女性。

なんで、こんな所に女性が居るんだ。

だが、死なせたら大事だ。

こんな狩猟区域に入ってくるなんて自殺行為にも等しい。そう思うとナイフをポケットに戻し、その女性を抱き上げ馬に乗せると、屋敷へ連れ帰った。

 

うちにはお抱え主治医がいるので、診てもらう。

「マルク様の狩猟の腕は見事と言うしかないですね。でも、全治1年掛かるでしょう」

「そんなにも掛かるの?」

「完治だと、それ以上掛かります」

その言葉に溜息を吐いていた。

「マルク様、この方は」

「知らない。シカかウサギかなと思って撃ったんだ。まさか、狩猟区域に人が居るだなんて思いもしなかったんだ」

「マルク様、面倒を見て差し上げて下さい」

「仕方ないな、全治するまで1年か」

「完治するまで、それ以上です」

「分かったよ。僕のせいだからな」