甥っ子コンプレックス

22

そんなある日、アンソニーが一通の封書を持って来た。

「マルク、これ見て」

「なんだ?」

「僕の勘だけど、ヒロは、その封書の差出人の所に居ると思う」

「どういう意味だ?」

「何処を探してもヒロが居ないんだ」

「え、居ない?」

 

チャーチかと思ったが、それは無いだろう。

なにしろ敷地外に勝手に出るとド―ベルマンの群れの中に放り込まれると知ってるからだ。あの時から敷地外に出る時は、必ず私に言ってくるから。

誰宛てなのか、また差出人も誰なのか分からない。アンソニーの言う通り、ヒロの事なんだろう。

封を開けると1枚の写真だけが入っていた。

猿ぐつわを噛まされ手を縛られて、頬を殴られた痣が見受けられるヒロが映っていた。

「ヒロ……」

誰だ、こんな事をする奴は。

腹が立ってきたらアンソニーの声がした。

「マルク、裏に何か書かれてるよ」

「え、裏?」

「これって何処の文字なんだろう……」

アンソニーは色々な文字を知ってるが、アンソニーの知らない文字なのか。写真を裏返すとルーン文字で書かれていた。これは、アンソニーには難しい文字だな。

だが、相手が分かった。あの野郎、よくも私の大事なヒロに手を出したな。

 

お気に入りの側付6人に声を掛けカールの別邸へと向かう用意をしていたら、背にパックバッグを掛けたアンソニーから声が掛かる。

「マルク、僕も」

「駄目だ」

「だって」

 

いつぞやリューゾーがヒロに向かって言った言葉を出していた。

「ヒロを守る為に鍛錬を怠るな」

その言葉にアンソニーは素直に従った。

「分かった。ヒロを連れて帰ってね」

「ああ、待ってろ」

「約束だよ。気を付けて行ってらっしゃい」

 

監禁されてる場所は鬱蒼と木々が茂り、道らしき道も無い。

獣道しかない。

そんな場所に、その別邸はあった。

1階には暖炉付きのリビングがあり温かそうなんだが、ここは2階の部屋。薄暗く窓も高い位置にあり寒くて暖の取れそうな物はない。そんな部屋で博人は相手を見上げる事しか出来なかった。

顎をくいっと持ち上げられ覗き込まれる。

「ふ。こんなにそっくりとはな」

今の自分に出来る事は睨み付ける事だけしかない。だから相手をキッと睨み付けてやる。

「勇ましい事だな。いいか坊主。お前はアイツをおびき出すエサだ。大人しくしてたら、殴られる事も無いんだからな。いいか、エサらしく大人しくしろよ」

あいつを殺して領主になる事が自分の夢なんだが、それが無理なのは分かっている。まだ『御』が健在だからだ。あの人が死んでマルクが跡を継いでも殺すチャンスはある。だから、ここで致命傷になりそうでならない程の怪我をさせれば良い。片目が良いな。それともやけどを負わすのも有りだな。暖炉に突っ込むのも有りだが、あいつは隙がありそうでないからな。

手か足でも良いな。

シェリーの居所が分からなかったのだが、マルクの所に居る事が分かってから機会を伺っていたのだがガードが固い。固すぎて隙が無いので拉致ることが出来なかったのだ。

だから、このガキを拉致ったのだが。

こんなにもマドリーヌに似てるんだ。

あいつは来る。

あのシスコンの塊は絶対にな。

 

だが、この男はシェリーの容姿がどんなに変わったのかを知らなかった。

知ってるのは息子であるカールとマルク、それとシェリーの父親であるヘル・グスタフォーの3人だけだった。