甥っ子コンプレックス

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ヒロ、私の可愛いヒロ。ニールも可愛いが、私にはヒロが一番だ。私の言う事を素直に聞いてくれるが、たまに理屈で攻めてくる時もある。

そんな中、1人の女性に会った。

とても綺麗で背も女性にしては高いが、ヒールを履いてるのかな。

リョーイチが学長をしている大学の声楽科からフェスティバルに歌いに来たらしい。でも話をしてると、ドイツ語も話せていたのが嬉しくてつい言っていた。

「卒業したらおいで。面倒みてあげるよ」

彼女は返事してくれなかったが、微笑んだままだった。

 

その夜、ヒロに電話をした。

「女子学生の1人でね、歌の凄い上手な人がいたんだよ。その人、すごく美人で私好みで。 つい楽しくなって自分の仕事のことを話してしまったんだ。 そしたら、ドイツ語なのに医療の専門用語で返されてビックリしてしまった。 たけど、その人は医学生なんだって。なので、言ってしまったよ。 ”卒業したらおいで。面倒みてあげるよ”って」

『はは、マルクは美人が好きだからなあ』

「ねね、ヒロ。今ね、開催されてるフェスに日本の大学から交流歌を歌いに来てるんだ。 初日と2日目に歌っててね、明後日の最終日にはファイナルを歌うんだ。私は最終日の日曜日は朝から聴きに行くのだけど、ヒロも聴きに来ないかい?」

『最終日の日曜日だと、午後からなら行けるかもしれない』

「午後13時から18時までだから」

『うん、行く。で、そっちで夕食食べるから』

「分かった。用意させとく」

 

当日は、ホールの持ち主という特権を利用して、その女性に近付いた。

リョーイチは他の人と話をしていたので、チャンスだと思ったからだ。日本人でもドイツ語が喋れる医学生だと初日に分かっていたのもあり、ドイツ語で話し掛けたのだ。

いきなり話を持ち掛けられ戸惑っていた様子だったが、それでも聞けば返してくれてた。

お姉様ほどでは無いが、美人の類だ。

日本語で写真を撮りますと言葉が聞こえてきた。一緒に撮りたいなと思ったが、学生同士でドイツに来た記念として撮るみたいだ。

学生たちが撮り終わった後、リョーイチに話を持ち掛けると、了承してくれた。

「マルクは……、この人は私の叔父なんだ。2,3枚でも良いので一緒に撮って」

 

その言葉で、学生たちと一緒になって数枚撮ってもらった。

もちろん、彼女の隣に陣取ったものだ。

すると、ヒロがカメラを構えているのが目に映った。

手を振ると気が付いたみたいで、こっちに向いてくれた。

カメラを構えてるので、何枚か撮ってもらう。

ふふ、夕食の時でも良いので写真を貰おう。

 

夕食後、ヒロから写真を貰った。

「ありがと」

「歌は聴けなかったけど、でも写真が撮れて良かったよ」

「明日はオフ?」

「そうだよ。今日は夜勤明けなんだ」

「なるほど、朝は寝てたのか」

「実は……、メトロで寝ていて降りる駅を間違えたんだ」

「こっちから行けば良いのに」

「遠回りになるから」

「ヒロらしいな」

「それじゃ、久しぶりにマルクの部屋で寝る」

「寝れるのか?」

「話もしたいからね」

「嬉しいな。ナイトキャップは何が良い?」

「ナポレオン」

「医者は、そんな酒は飲みません」

「で、葡萄ジュースか?」

 

その言葉で笑ってしまった。

「なんだよ、まだ覚えてるのか」

「当たり前だ。もう騙されないからな」

「分かったよ。その代り1杯だけだよ」

「うん」