私は王子なんだ。
イタリア王妃の子供なんだ。
その王子に、あんな事を……。
許さない。
私を誰だと思っている?
私は正真正銘の、イタリア王子だっ!
パチッと、目が開く。
目が覚めると、ウォルターの姿が視界に入ってくる。
「気が付いたか? お前さん、疲労でぶっ倒れたんだよ。おまけにバーンズに殴られたし。腹空いただろ。ほら、食え」
そう言って、オムライスを乗せた皿を渡してくれる。
「ありがと」
「どいたしまして」
グズが食べきったのを見計らって、ウォルターは声を掛けてきた。
「しかし、見事なナイフ捌きだったんだな」
何の事かは分かってる。
昨夜の事だ。
黙ってると、ウォルターはグズの頭を優しくポンポンと叩いてくれる。
「別に怒ってんじゃないぜ。大した腕だなと思ってね。グズってさ、もしかしたら、この国の誰かに何かをしてぶち込まれたのか?」
「違う」
「そっか、違うのかぁ。あー、でも昨夜のグズのナイフ捌き、見たかったな」
そのウォルターに、グズは話した。
この隊にぶち込まれた経緯を。
大事なフルートを取り上げられ、取り返そうとして、その男の腕にしがみ付いて宮殿の中まで入った事。
そして、目の前でフルートを割られた事を。
ウォルターは目をパチクリさせている。
「え、宮殿って……。お前、国王に歯向かったのか?」
「フルートはお父様から貰ったから。それを、それを、あの男が……」
「お前さー……、そういう時は、はい、どうぞと言って渡せば良かったのに」
「だって、お父様から貰った大事な」
「ああ、分かった。分かったから泣くなよ」
そう言って、ウォルターは抱きしめてくれた。
いつもは意地悪な事を言ってくるのだが、こういう優しい面もあるんだな。
その温もりを感じながら、グズは話し掛ける。
「でも、そのお蔭で皆と出会えたんだ。辛い事もあるけど、バーンズとリンとウォルターに出会えたのは嬉しい」
「そうだな。俺は、何時の間にか連れて来られてたんだ」
だが、これだけは言わないといけない。
そう思い、グズは言っていた。
「ウォルター」
先程とは口調が違うのを聞き取ったウォルターは、じっと耳を澄ましている。
「何?」
「後2年しか残ってないんだ」
「何が?」
「観光ビザ」
「は? ビザって、お前?」
「私は日本人だ。お母様はイタリア人だけど、お母様にくっ付いて5年間をイタリアで過ごすという予定だったんだ。お父様は日本人だけどね。あのフルートは、お父様から貰った大事な物なんだ」
するとリンの声がした。
「ああ、なるほどね。生粋のイタリア人では無いな、と思ってたんだよ。ハーフなんだね」
ウォルターがリンに聞いてる。
「本当に、そう思ってたのか?」
リンはウォルターに話し掛ける。
「ウォルター。世界地図の読み方、知ってる?」
「それ位、知ってらっ」
「日本と中国は、お隣さんだよ」
「それ位、誰でも」
今度はグズだ。
「ウォルター。日本は島国だよ。海に囲まれてるんだ。中国は大きな陸地で、色々な人種が沢山住んでいるんだ」
「へー。海を隔てた、お隣さんか」
「私は、約束の5年間はイタリアに居る。だけど、2年後には日本に戻る。何が何でも、お父様の所に帰る」
「グズ……」
「昨夜の奴等は言ってたよ。『恨むのなら国王を恨め』とか、『イタリアが大嫌いなんだ』とか。『今迄の鬱憤を晴らしてやる』とか。なら、国王にしろよ。そう思ったね」
バーンズの声が割って入ってくる。
「それでも、全員を殺すのはやり過ぎだ」
「殺らなければ、犯られる……」
「明日には、大人隊がぶち込まれる」
その言葉に驚いた。
リンの声が、真っ先に出ていた。
「え、もう?」
ウォルターも呟きで応じる。
「まあ、隊員はイタリア人ではなく外国人ばかりだからな」
バーンズは、そのウォルターを睨んで言ってくる。
「ところで、ウォルター」
「何だ?」
「何時まで、そいつを抱いてるんだ?」
「え、落ち着くまでだけど?」
「見れば分かるだろ。もう落ち着いてるぞ」
「うーん……」
何て返そうかと考えてると、バーンズは言ってくる。
「それに、ここは私の房だ」
「はいはい、分かりましたよ。じゃ、な。グズ」
リンは笑って言ってくる。
「ウォルター、何を不満気な表情してるの?」
「なあ、バーンズって、もしかしてグズの事……」
「保護者でしょ」
「あー、なるほどね。何となくだけど、納得した」