一緒にくっ付いてきたアールの銀髪を黒く染めるかどうかと悩んだが、太らせることにした。
なにしろ探し人リストに入ってるからだった。
ドイツの病院で細長の強面顔を横に膨らませ、鋭さを感じさせていた目付きを二重にすると別人になったので、シンガポールに向かう。
シンガポールで1年も経つと、その顔がもっと丸みを帯び、体型も筋肉の代わりに贅肉が付き腹割れが薄くなってきた。これならぷっくり顔とぷっくり腹で、十分に別人に見える。
そんな時、シンガポールにある多国籍病院の室長をしているレイと会った。
仕事先のボスがレイを会社に招いたらしい。
「初めまして。 スチュワード=レイ・コウです。レイと呼んでくれると嬉しいな」
「お会いできて嬉しいです。ウィルです」
「アールです」
レイはボスに向かって聞いてる。
「ミスター、この2人はどんなだ?」
「2人とも何でもこなすぞ。アールはそそっかしい所もあるけど、お茶目な奴だよ」
「へえ……。ねえ2人は、ここに来る前は何をやってたの?」
先に応じてやる。
「探偵です」
「これは、また……」
ボスの声が割ってくる。
「ウィルは調べものをさせると詳しく調べる。重宝してるんだ」
「ボス、そう言って頂けると嬉しいです。ありがとうございます」
今度はアールに聞いてる。
「アール、君は?」
黙ったまま、何も言わないアールは私の方を見てくる。
もしかして助け船を必要としてるのか。
仕方ないと思い、推測しただけの言葉を出してやる。
「こう見えて、スポーツのコーチをしていたんです」
「どうして君が言うの?」
「アールは何も言わないから」
確かにそうだね、と苦笑して呟いてるが諦めてないみたいだ。
「アール、君は何が得意なの?」
アールの声を聞きたいのかと思い、アールを小突いてやる。
「自分で言えよ」
溜息と共に口から出た言葉は、とんでもない言葉だった。