あれから3年が経った。
ジョンは時々ウィルを思い出すようで、その度に私の部屋で寝ていた。
虐めは無くなっていないが、ジョンは泣くまいと必死に我慢しているのが見て取れていた。
そんな時、『御』とジュニアであるマルク様に呼び出され本宅に2人で向かった。
そこにはホワン様も同席されていた。
ホワン様がシンガポールマフィアのドンになられたと話してくれた。
「フィル、君も一緒にシンガポールに来て」
「え、いきなり言われても」
ジョンは『御』とジュニアの2人から声を掛けられている。
「アンソニーが日本から帰国するとシンガポールにある多国籍病院のボスになるので、監視役として付いて行って欲しい」
いきなりの事で、ジョンは唖然としているのか黙ってる。
いい機会だ。逃す手はない。だから、私は言っていた。
「ジョン、一緒にシンガポールに行こう」
「フィル……」
「任務とは言え、これは自分の自信にも繋がる事だ。それに、やっていく内に自信はつくよ」
「でも……」
「それに、同じシンガポールに居るんだ。色々と話し相手になってあげる」
そう言ってやると、ジョンは安心気な顔になった。
「ん、そうだね」
そう言うと、『御』とジュニアに向かって返事をしている。
「頑張ります。宜しくお願い致します」
ホワン様は念を押してくる。
「という事は、フィル。君もOKなんだね?」
「はい。宜しくお願い致します」
フィルはシンガポールマフィアの秘書とコンピューターを兼任して、ジョンは多国籍病院のボスとなったアンソニーの監視役として、シンガポールに到着した。
上司である2人はジェットで来るので、気楽なシンガポール行きになり気分はハイだ。
空港の1階には色々なテナントが軒を並べているので歩いてみる。
誰かと誰かのお腹の虫が鳴ったのか、2人して顔を見合わせると、あははっと笑いながら、先にジョンが声を掛けてくる。
「フィル。あそこで何か食べようよ」
「美味そうな店が並んでるな。ジョン、こっちを見てみろ。中華があるぞ」
「中華、大好き」
「先行って席取っといて。買ったら持って行く」
「はーい。フィルの荷物持って行く」
「ありがと」
オープンテラスの2人掛けが空いてるのを見たジョンは座り、フィルがトレイを持ってくるのを待っている。
暫らく待ってると、こっちに歩いて来るフィルを見つけたので手を振ると気が付いたのだろう。こっちに向かって来た。
「お待たせ」
「うわぁ……、美味しそうだ」
テラスの椅子に腰かけ嬉しそうに食べていた。
「アーノルド、そろそろ……」
そう言ってウィルは椅子から立ち上がると、ある一点を見つめたまま動きが止まる。
「ん。オーストラリアは未知な所だから楽しみだ」
アーノルドは急に何も言わなくなったウィルが気になり、ウィルの視線を辿っていくが、人が一杯いるので分からない。
「どうした、何かあるのか?」
でも、中々動きが無いのでアーノルドは肩を揺さぶる。
「ウィル、ウィリアム、どうした?」
その言葉にハッと気が付いたウィリアムは、その一点を見つめたまま応じる。
「い、いや、何でもない。知り合いに似てるなと思って見てただけ」
「そうなの?」