その視線の先に居るのは、フィルとジョンだ。
君たちは変わってないね。その笑顔だと2人の大好きな中華を食べてるのかな。本当に変わらないね。私は、これから生まれ故郷で暮らす。
もう、あんな所には戻りたくない。
ここシンガポールに居た間は、時々思い出していた。
君たちの顔が浮かんでくるんだ。
だけど、ここからは自分の人生だ。
新しく踏み出す。
私は過去を心の奥底にしまい、頑丈に蓋を閉める。
二度と開ける事は無い。
でもドイツで学んできた事は忘れないよ。
これからの仕事に役立つからな。
フィル、元気でやれよ。
ジョン、泣き虫を直して強くなれ。
遠く離れたオーストラリアから2人の健康を祈ってるよ。
良い思い出は一つも無かった。
だけど、これだけは言える。
今、私は生きてる。
だからこそ、これからの人生を過ごす。
”ありがとう”なんて感情は無いから言わない。
なにしろ勝手にイタリアに連れて行かれ、また勝手にドイツに連れて行かれたのだから。
自分の思いで行ったのではない。
だから、この言葉を君たち2人に贈ってあげるよ
”人間、出会うから別れが来るんだよ”
”今迄、よく頑張ったね。お疲れ様”
”来世で会えるかどうかは分からないが、元気で”
チャオ!
何かを感じ取ったのかアーノルドは声を掛けてくる。
「ウィル。声を掛けてきたら?」
その言葉に、ウィルことウィリアムは2人を背にして歩き出した。
「時間だ。行こう」