可愛いと言わないで

可愛いと言わないで 10

悟さんは迷う事無く高校の方へと足を向けているので、俺は焦った。

「悟さん、そっちは高校ですよ。昌平さん、悟さんが」

助けを求めようとして昌平さんに言ったら、こう返してきた。

「あいつは、ここの高校を卒業したんだ」

「悟さんが、ここの?」

「高1の時に転入したんだ」

そういえば悟さんの事は何も知らないと気が付いた。でも、一つ知ることが出来たので嬉しい。そうか、悟さんはここの高校の卒業生なんだね。昌平さんの声がする。

「優ちゃん」

「何ですか?」

「さっきの先輩と、いつから恋人に」

とんでもない誤解をしている昌平さんの言葉を遮っていた。

「違うから!」

「何が?」

「新手の虐めだから気にしなくて」

すると、今度は昌平さんに遮られた。

「虐められてるのか?」

昌平さんの顔が険しくなった。そう言えば、夏休み前の事を言ってるのかと分かった俺は言い直していた。

「虐めって言うか、こっちの反応を見てからかってるんだ」

「そんな風に見えない」

「言っとくけど、先輩は俺より背が低いけど男だから」

「は?」

「先輩は、普段は学生服ですよ。学ランなの。女子が少ない部なので文化祭の時はセーラー服を着てるんです。俺にも、その、着ようよと言ってきたけど、断った」

何か想像したのか、昌平さんは笑い出した。

「あははっ、いやー、こりゃ、参ったね、男子だったとは。はははっ、ヒーヒー……、優ちゃんのセーラー服、似合うだろうなあ」

「似合いませんっ」

少し待てば笑い止むだろうと思っていたんだ。だけど、昌平さんの笑いは止まらない。いつの間にか悟さんの声が聞こえてきた。

「全く……、2人とも来ないし何やってるんだと思ってたら笑い転げてるし」

「悟さん、あっちは高校ですよ」

「行くよ」

悟さんは手を繋いでくれた。虐めてくる時もあるけど、悟さんは、こうやって手を差し伸べてくれる時もある。怒られる時もあれば笑い掛けてくる時もある。

今は、差し向かいで遅めの昼食を食べている。BGMは昌平さんの笑い声だ。

「で、昌平は何を馬鹿笑いしてるんだ?」

「知りません」

2人で何を話していたのかと問われたので、素直に答えたら一言だけだった。

「見れば分かるだろうに……、昌平の目は悪くなってきてるな」

「悟さんは、先輩が男だって知ってたんですか?」

「私は医者だよ。骨格からして、男子だ」

悟さんは昌平さんの近くに寄っていく。

「いつまで笑ってるんだ。いい加減にしないと昌平の分も食べるぞ」

「ははは……、だって、だって……。ん、私の分って?」

「シュークリームとホイップクリームのクレープに、ホットレ」

「いるー、欲しいー」

本当は優しい悟さん。言葉足らずで不器用なところもあるけど、虐めてくる時もある。たまに怒られる時もあるけど、昌平さんに向ける言葉や顔は優しそうだ。俺は、そんな悟さんが好き。

「そろそろ時間になるかな。それじゃ、今度は教室に居るから」

「送りついでに、校舎の中を見て回る」

「良いの?」

「ああ、まい」

「嬉しい」

ボソッと呟いてる声は聞こえてなかった。

「言いたかったのに、あんな顔で嬉しいと言われると何も言えない……」

「何か言った?」

「いや、別に」

悟さんは小声で何か呟いてる。迷子になると困るし、誰かに襲われるから、と言いたかったんだ。

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