可愛いと言わないで

可愛いと言わないで 29 引越

引越し当日は天気が良く、引越し日和と言えそうだ。予定通り、家具は11時に着いた。家電は昼から買いに行く予定にしているので、それまで家具の設置をしていく。

カーテンは優介作のオリジナルだ。絨毯は無く、フローリングの上に直にベッドを置く。優介が掃除する時に絨毯があると邪魔だからと言って許さなかったからだ。だが、ベッドの足には緩衝材としてマットを取り付けるのは許してくれたので設置する。

隣の部屋は悟の書斎で、本宅の自分の部屋から持ってきた書棚と机等を置いていく。

悟は自分で人を手配したのだ。その彼等は優介の部屋も手伝ってくれた。その内の2人が「使い古しで悪いが……」と言い、勉強机と本棚をプレゼントしてくれ、それを設置していく。その机と本棚は傷も汚れもなく見た目が新しいので、優介は大喜びだ。

なので私は寝室にクローゼットを置く。

昌平や隆星も手伝ってくれるみたいで、買物をお願いした。手伝いに来てくれた6人の内の1人、新一が声を掛けてくる。

「へえ、今度は悟が住むのか」

「ああ、恋人と2人でな」

「へえ、良いなあ。こい……、え、今、なんて……」

その言葉に驚いた新一は思わず悟の方を振り向いた。その時の、悟の表情にも驚いた。悟の冷笑なら何度でも見慣れていたが、微笑だなんてレアな物を見た新一は、それ以上は何も言えなかった。だから、ボスに言っていた。

「ボス、ボスッ! ボスったら、ボ……、あ、いや違った。昌平」

「なんだ、煩いな」

「睨まないでくれよな。あんたの睨みはおっかないんだから」

「何か用事か?」

「あ、そうそう。ここって、2人でって、恋人とって」

「何の事を言ってるのか、さっぱり分からんぞ」

一つ深呼吸して新一は気持ちを落ち着かせると、口を開いた。

「悟が2人で暮らすって、本当なのか?」

「ああ、それね。優ちゃんと一緒にな」

「優ちゃん……。え、あの天然坊やと?」

「本人は自覚無いけどな」

「悟の恋人って、あの天然君の事かあ……。ぐぇっ」

その呟きを耳にした昌平は新一の胸ぐらを掴んでいた。

「何、今、何て言った?」

「く、くるじ……」

「悟が、優ちゃんが何だって?」

「は……、なし」

昌平は胸ぐらを掴んで喉を締めていたのに気が付き、手を放す。

「あの2人が何だって?」

げほっ、ごほっと息をして生き返った思いをした新一は言っていた。

「悟が言ったんだ。”恋人と暮らす”って」

その言葉が信じられなかった。

「嘘っ!」

「しかも、あの悟が顔を真っ赤にして微笑んでいたんだ」

「優ちゃんが、優ちゃんが……、悟と、恋人? 嘘、信じられない」

「俺も信じられない。でもよ、童貞だろ?」

「優ちゃんは童貞だろう。悟は……」

「突っ込む方なのかな……」

想像したのだろう、2人とも顔が真っ青になった。

「いやいや、信じられない」

「ボス、これは本人に聞いた方が良いと思う」

「いや、聞き間違いじゃないのか」

「そうだと良いが」

そんな時、声が掛かった。

「ほら、そこの隊長とサブ動けよ。邪魔だ」

「隆星……」

兄の顔を見た隆星は、驚いて足を止めたほどだ。

「なんだよ、顔色が凄く悪いぞ。いつもなら寝てる時間だから、出歩くのは無理という事だな」

「隆……」

隆星は、末っ子の悟を見かけたので声を掛けていた。

「悟、病人を任せる。部屋へ連れて行け」

その声に、振り返った悟は近付いてくる。

「誰がびょ……、昌平? どうしたんだ、その顔色は」

「いつもならグッスリ就寝タイムなのに、我慢して起きて動いてるからだろ」

「寝てればいいのに」

「まあ、何日も前から1人ではしゃいでいたからなあ」

「ほら、1人で歩けるか。っと、仕方ないな、担いでやるか」

そう言って、悟は足がもつれて動けなくなった長兄の昌平を肩に担いで本宅へと向かった。重い筈である長兄を軽々と担いでる悟は、さすが医者だけあって人体のツボを押さえてるんだなと思わされる行動だった。

新一と呼ばれた元暴走族のサブボスをしていた人物は、元ボスだった昌平と、その末っ子である悟の後姿を見て呟いていた。

「なるほど。暫らく会ってないと、こうも変わるものなのか……」

その後、引っ越しも無事に終え、手伝いに来てくれた彼等も含め、皆で本宅の食堂で夕食を御馳走になっていた。

「んー、やっぱり美味いわ」

「久々に、御馳走になった」

「で、ボスはどこに行ったんだ?」

新一は聞いていた。

「悟、ボスは?」

「大丈夫だよ。血圧や心拍も異常なしで、ぐっすりと寝てるから」

「なんだ、寝てるだけなのか」

その言葉に、隆星が応じていた。

「1人だけ、大はしゃぎだったからなあ」

すると、皆して大笑いしていた。

「ボスは、ああ見えて子どもっぽいところがあるからなあ」

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