可愛いと言わないで

可愛いと言わないで 38

『御』のバースディパーティーが終わり、「優介の学ラン姿にもっていかれた」と言う『御』の言葉に照れて返していた。

「そんな事無いですよ。やっぱり息抜きは必要ですね」

そう言うと、皆して笑ってくれた。離れに戻る時、悟さんにも言われた。

「学ラン姿、カッコイイよなあ」

「ありがとう。でも、スーツの方が素敵だよ。早くスーツの似合う大人になりたいな」

「ゆっくりで良いからな」

そう言われたが、早くなりたい。だから、こう返していた。

「悟さんや友兄の様に、ビシッとスーツを決めたいんだ」

すると悟さんは複雑そうな表情になった。

「悟さん、どうしたの?」

「40年掛かるかもな」

「ひっどー」

離れに入ると学ランを脱いでいたら悟さんは聞いてきた。

「この袖口どうしたんだ?」

「袖口って?」

悟さんは俺の脱いだ学ランの袖口を見ている。

「ああ、そこはね、友兄が”ギリギリまで出して縫う”って教えてくれたの」

「友兄って」

「友兄。で、この襟止めを直してくれたんだ。あとね、前立ての部分も縫い代を少なくして縫ってくれたんだ。少しブカブカだけど、大丈夫だよって言ってくれたんだ」

嬉しくて喋っていたので悟さんの表情なんて見てなかった。調子に乗っていた。

「あとズボンも丈を長めにしてくれたの。さすが友兄だよね。それに、ウエストのゴムを切って緩々にしてベルトを締めると、ずる事も無くOKだって。もう、神様って感じ。で、一緒にパーティー会場へ行ったんだ」

そこまで言うと、悟さんの異変に気が付いた。

「悟さん、どうしたの? 顔色が悪いよ。寝てて」

「ゆう、す、け……」

「ゆっくり寝てて。俺は勉強するから。朝まで頑張るから、ね」

「ゆ……、すけ、ボスは」

「何?」

「ボスは、お前の言ってる友兄は」

「友兄は、って何?」

悟さんの声が小さくなった。

「死んだんだ……」

俺は叫んでいた。

「嘘だっ! 死んでない、友兄は生きてるよっ」

「死んだ、んだ」

「そんな事言わないでっ! 友兄は死んでないっ」

悟さんが泣きだしたので、驚いたほどだ。

「嘘なら、嘘なら、どんなに良いか……」

「悟さん」

「でも、私は信じてない。生きてるって思いたい……」

即答していた。

「だって、友兄はここに来たんだよ。俺の学ランを直してくれた」

「それが本物なら嬉しいよな」

「悟さ」

「優介。私はね、ボスが死んだって事も信じられないんだよ……」

俺は言いきってやった。

「友兄は生きてるよ」

「優介……」

「生きてる。だって一緒に話をして、この制服を直してくれて、お茶も飲んだんた」

その「お茶」という言葉でテーブルに置いたままにしていた湯呑が目に付いた。

「やばっ、湯呑を片付けてない。ごめんなさい。お客さん用のが無かったので、悟さんの湯呑を借りました。すぐに洗いますね」

「待って」

「何ですか?」

悟さんはテーブルに近付くと湯呑を持ち上げた。

「2つとも空だ」

「だって、友兄も一緒に飲んだんだよ」

そう、一緒に座ったんだよ。だから言っていた。

「悟さん、友兄は生きてるよ。死んだなんて信じない。もし死んだのなら連絡くるし、あ、双子の弟だっけ……、その人なら分かるんじゃないかな」

その言葉で双子の姉がいる事に気がついた。それに、弟も都内で暮らしている。気持ちが楽になったのか、悟さんは言ってきた。

「優介の言葉を信じるよ」

「うん、信じて」

何の根拠もない、その言葉に気が付いた。ボスにとって優介は大事な存在だ。たった一人の、親友の忘れ形見だ。そんな人に、ボスは何も言わない事はしない。そう思うと、気が楽になった悟だった。

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