可愛いと言わないで

可愛いと言わないで 44 高校生

今日は高校の入学式。この学園の高等部に進む人は小中学からの持ち上がりが8割強ほどいる学校だ。それでも、公立から私立へと希望する人は居る。その人達と、一緒に過ごす最初の日。それが入学式だ。

岡崎徹は同じクラスになった斎藤優介に目を付けた。文武両道を謳っている学園に、庇護欲をそそられる人物が居るのが不思議だったのだ。

長髪をポニーテールよろしく後ろに束ね、それを襟元にたくし入れている。それが岡崎徹の普段だった。区を跨いだ隣区に住んでいて、家には道場があり、生粋な江戸っ子だ。空手を得意とするが、音楽にも才はあった。それがバイオリンだ。空手とバイオリンとでは大いに違うが、そのギャップが堪らなく良いと男女共に人気だった。

優介は中学まで家庭科部に所属していた為、高校でも家庭科部に入部した。中学では週に3日が部活だったが、高校では金土か、土日の一泊二日のお泊り部活がある。自分たちでテントを張り、ご飯は飯盒炊爨、おかず類も作っていく。

平日の部活は裁縫の日で、宿泊の入らない土曜日は皆で昼食を持ち寄って過ごす。ある意味、楽しい部活だ。

同じクラスの同級生という括りでしか見てなかった2人が急接近したのは、その一泊二日の時だった。夏休みが目前に迫った、1学期の最終土日を利用しての宿泊部活。それは起こった。

6人用のテントが六張りも張れる敷地を使わせて貰っていた。道場では1ヶ月も前から”お知らせ”として手紙を渡したり、掲示板に貼り付けて習いに来られる人たちに知らせていた。だけど、気にくわない人も居るみたいで、その人達に絡まれたのだ。

テントを張らせて貰っている場所は道場の裏庭に当たる場所だ。

目につく場所でもなければ道場の建物をぐるりと半周周り、道場主の家を通らなければ行けない。誰も簡単に来れない場所だ。いつもの様に22時になると片付けも終わりランプもテント内だけ灯す。

今回は、女子は1人も参加しなかったせいか、テントは三張りだけだ。6人用に1年生は4人、2年生は3人、3年生は3人と、悠々と手足を伸ばせる事が出来る。

家庭科部の顧問の先生は、今回は男の先生だけだ。その先生は2年生のテントに入ったので、各テント内でお喋りして就寝に就く。そんな時、大きな声が響いてきた。

「おい。何だよ、これっ」

「なあ、モノにするか」

すでにテント内のランプは消えている。道場は23時までだというのは知ってるし、誰も行かないから大丈夫だよとも言われていたので安心しきっていたのだ。

「なあ、こういう場合は奥の方に可愛い子がいるって事だよな」

「いや、逆に手前だったりするかもな」

「獣から守ってやろうぜ」

「へへっ、女子高校生かあ」

「良い響きだよなあ」

先生から部活LINEが着た。

『学校から許可貰った。自分の身は自分で守れ』

『相手は8人』

それに皆が、文字打ちで「OK」とか「了解」とか「りょ」とかスタンプとかで打ち返す。

ドキドキしながら相手が来るのを待つ。ランプで照らして中を覗き込もうとしているのか、そんなシルエットだ。

いくら高校生でも文武両道に秀でた集団だ。優介は護身術を辞めたが、今では少林寺と合気道を中学校の時からしている。他の3人も同様に複数の武術をしている。

さあ、来い。返り討ちにしてくれる。

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