可愛いと言わないで

可愛いと言わないで 5

そこで暮らす様になりもう少しで小学生になるという時、悟さんに呼ばれた。滅多にない事なので緊張していた。

「優介、お前は何をしている?」

なんか怖い顔と声で睨んでくるが、思い当たらない。

「何をって?」

「昼間、お前は何をしている?」

問われた意味が分からなかった。

「昼間って、幼稚園に行ってるよ」

「それは分かっている。私が聞いてるのは、帰ってから何をしてるのか。それを聞いてるんだ」

「自分の部屋を掃除してるよ」

「何もしなくて良いと言ってるだろ」

「だって、自分の部屋ぐ」

遮られた。

「それは使用人の仕事だ。彼等の仕事だ。彼等はそうやって給料を貰ってるんだ。お前は彼等の仕事を奪うのか?」

「え、だって……」

「だってじゃない! 最初に言っただろう。お前は、ここで働くのではなく、暮らすのだと。誰が使用人になれと言った。優介、それは誰が言った!」

その剣幕が怖かったので泣いていた。

「だ、だって、だって……、何もする事が無く、自分の部屋は誰でも掃除するでしょ。それさえも、しては駄目なの? 悟さんは自分の部屋を掃除しないの?」

「ああ、しないね」

「僕は、するよ」

「優介」

ギロッと睨まれ怖さを感じていた。耐えられずに、泣いて叫んでいた。

「なんで、何で掃除したら駄目なの? 誰でも、皆、自分の部屋は掃除するよ。悟さんのバカッ! そんなに睨まないでよっ! 大嫌いっ!」

自分の部屋に戻ろうと思ってリビングから出ようとしたら、誰かにムギュッと抱きしめられ、悟さんに腕を引っ張られた。

「放してよ、僕は部屋に戻るんだっ!」

抱きしめてきた人が声を掛けてきた。

「何を煩くしてるのかと思えば……。掃除位しても良いじゃない。ねー、優ちゃん」

抱きしめてくれた人って昌平さんだった。

「うん、そうだよね」

嬉しくて抱き返そうとしたのだけど、腕が動かない。

「悟さん、放して」

その悟さんは昌平さんに言いだした。

「昌平、こいつは自分の部屋だけでなく執事の部屋までしてるんだ」

「優ちゃん、自分の部屋だけだと物足りないの?」

「執事さんの小さい窓しかしてない」

「小さい窓……」

「うん。他はしなくて良いから、小さい窓を拭いたら好きなだけ本を読んでも良いよって言ってくれたんだ」

「なる。あいつの本棚には絵本とか色々とあるからなあ」

昌平さんは優しく言ってくる。

「あのね、優ちゃん。私たちは執事や使用人の仕事を取らない、邪魔をしないというのが、暗黙のルールなんだよ」

「どういう意味?」

すると悟さんが言ってきた。

「私たちは主人だ。使用人は、その主人に仕える。だが、お前は使用人ではない」

「でも、僕は主人じゃない」

「優介」

この声は怖い。だから昌平さんに抱かれたまま言っていた。

「僕は主人じゃない。ここで暮らしていても、僕は、この家の子どもではない。僕は斎藤優介だ。山口優介ではないっ! 悟さんのバカッ! そんな怖い声で言わないで。怖い顔をしないで!」

本当は逃げたかった。だけど昌平さんに抱かれて悟さんに腕を引っ張られているので身動きが取れないでいた。

にほんブログ村 ベンチャーブログ 女性起業家へ
にほんブログ村 

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。