可愛いと言わないで

可愛いと言わないで 50

高等部に入った4月、『御』に呼ばれてリビングに行くと、昌平さん、隆星さん、悟さんも居た。これは、何だろう。なんか嫌な予感がする。その不安を吹き飛ばしたくて、俺は自分から言おうとした。

「あの」

だけど『御』は遮るように話し出した。

「私が優介に渡している毎月の小遣いは、君の父親が遺したお金だ。だから遠慮なく使いなさい」

「どういう意味ですか?」

「優介が20歳になったら、父親の遺産が手に入るように手続きを済ませてる。だから気にしなくて良い」

昌平さんと隆星さんと悟さんの3人は何も言わないが、知っているみたいだ。

「俺、何を言えば良いのか」

「優介君は、直ぐにでもお金が欲しい?」

「隆星さん、俺は、そんな事思ってません」

今度は昌平さんだ。

「それなら優ちゃんは」

「昌平さんは俺をどうしたいのですか? 俺は、昌平さんの事、好きです」

「ありがとう」

「お兄さんだったり、お父さんだったり。優しくて頼りがいがあって」

「そんなに思ってくれてるんだ。嬉しいな」

「でも、急に、こんな事を言われても」

今度は悟さんだ。

「優介は自分で思ってるよりも、この家が好きなんだな」

「悟さん。俺は昌平さんだけでなく『御』も隆星さんも好きです。ただ、その、急に言われても」

悟さんに向けて言った言葉なんだけど『御』が返してくれる。

「分かった。優介、私が言いたいのは。優介に渡してるお金は、私のお金ではなく、斎藤康介という人物の遺産を渡してるんだ。だから、遠慮しなくて良い。

何か欲しい物が有ったら買ってあげるから。でも、その代り、お金は私のではなくて、斎藤優介が遺産として受け取るべきお金の一部なんだ。

言ってる事分かるかい?」

頭がこんがらがってしまいそうだ。

「どうして、今、言われるのですか?」

「気を悪くしないで欲しい。うちの使用人が勝手な事を言ってるから、いつかは優介の耳に届くだろうと思ってね、それなら先に言っておこうと思ったんだ」

その言葉に、まだ小学生だった頃、使用人たちが話していた事を思い出す。

「そうですか……。話して頂きありがとうございます。でも、俺は父の事もそうだけど、それよりもいっぱい育ててくれた『御』や皆さんに感謝しています。

いつかは恩返ししたいと思って……、いつになるか分からないけど、それまで待ってて下さいね。俺、本当に皆の事好きだから」

悟さんがポンポンと優しく頭を叩いてくれるので泣きついていた。

「ふぅ……」

「はいはい、後で洗ってもらうからな」

20歳になるまで、後5年。小学生の頃は何も考えずに、お小遣いを貰えて嬉しくて悟さんに「お菓子を買ったから」と言って半分こして一緒に食べていた。

5年生の、あの事故が起きてからは迷惑にならない様にしようと、極力部屋から出ない様に籠っていた。離れに移る事を決めた時は、使用人の話を聞いたからだ。

俺は、お坊ちゃんではない。だけど、『御』から話を聞いて安心したものだ。でも、全部が全部、お父ちゃんのお金では無い筈だ。

ここの初等部に転入して5年生、6年生の男子は学ランが制服だった。中等部ではスーツジャケットが制服で、高等部ではジャケットは必須だが、それ以外は自由だ。

でも、俺は中等部の制服であるカッターシャツとネクタイが好きで、高等部に入ってからでもカッターシャツとネクタイだ。

まだ小学生だった頃、友兄が学ランを手直ししてくれた。あの魔法を忘れたくなくて、もう着れなくなったけど、まだ持っている。

この離れに移った時、色々な布地を反物で買った残りは、まだたくさん残っている。その生地を使って、自分の服を縫っている。

今は、クリスマスプレゼントに悟さんのセーターを編んでいる。他の3人は色違いのマフラーにするつもりだ。

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