可愛いと言わないで

可愛いと言わないで 54 抱いててやるから泣きたいときは思いっきり泣け

優介は、父親が死んだ事が分からず、友兄に抱っこされてた事を思い出していた。

トモがピンポンと鳴らすのを窓から見ていた俺は「トモー」と言って抱きついていた。だけど制するかのように肩に手を置かれ、トモは言ってくれた。

「優介、よく聞いてほしい」

「うん、なに?」

「私は、まだ大学生だ。だから金もなければ、優介を幸せにさせる力もない。これからの事を考えれば、お前は親戚の所へ行く方が」

それ以上は聞きたくなかったので、トモの顔を叩いていた。

「いやだ! トモと一緒に居るの。ここで、皆と一緒にお父ちゃんを待つのっ」

トモの言葉は、これだった。

「康介は……。優介のお父ちゃんは、死んだんだよ」

「バカ!!」

思いっきり叩いてやると、家の中に走ってった。聞きたくない、あんなトモの顔も見たくない。なんで、そんな事を言うの?

だけど、それっきりトモは来てくれなかった。次に来たのは、葬式の時だった。トモは、その時も「親戚の所へ行け」と言ってきた。それが嫌で嫌で、嫌われたんだと思ったものだ。

だけど、葬式が終わっても来てくれなかった。お父ちゃんも帰ってこないし、”これがお父ちゃんだよ”と、お父ちゃんの友達が細長い石を持たせてくれた。

こんなの違う。お父ちゃんは、人間だ。こんなのじゃないっ! トモは、トモはどうしたの? なんで来てくれないの?

何もする気が起きてこない。何も食べたくない。どれぐらい、そうしていたのか分からない。どれ位経ったのかすらも分からない。そんな時、トモの声が聞こえてきたんだ。

「優介、ご飯は食べてるか? これ作ってきたのだけどおやつにしよう」

おやつを目の前に出されたが、そんなのは欲しくない。

なに、それを持って来ただけなの? 文句言ってやる。お父ちゃんは何処に居るのか、何処に隠したのかを聞くんだ。トモなら教えてくれるだろう。

だけど、トモの顔を見たら何も言えなかった。手を伸ばす事も出来ない。嫌われたらどうしようと、そればかりだった。その時、言ってくれた言葉は忘れる事は出来ない。

『優介、泣きたい時は思いっきり泣け。抱いててやるから』

あの言葉が嬉しかった。文句言いたかったのに、そういう事を言われると何も言えないじゃないか。トモのバカッ。

だから抱き付いて服を握ってやったんだ。もう離さない。離されたくない。そう思っての事だった。思いっきり泣いていた。お父ちゃんは何処に居るのか。それを聞く気も起きてこなかった。

あの頃はトモと呼んでいたが、「康介とは友達だけど、優介は康介の子どもだ。それに優介とは友達ではないから」という理由で、”友兄”と呼ぶ様にと言われた。

納得いかなかった俺は、「それなら、僕はトモとどういう関係なの?」と聞いていた。すると「私にとって、優介は大事な存在だよ」と即答された。

友達と、大事な存在って、どう違うのか分からなかった。だけど、その「大事な存在」と言う言葉に安心感を覚えたものだ。納得したから、トモから友兄に呼び方を変えたんだ。

少しでも役に立ちたい。友兄に助けられた、そのお返しを徹にしただけの事だ。

 

今回の事がきっかけになり、徹は優介を好きになり始めた。誰かに抱きしめられ、頭を撫でられる。こんな事は初めての事だ。

親にもされてない事を、優介にされると恥ずかしいのもあるが嬉しいものがある。ギュッと抱きしめてやる。

「細い奴だなあ。食ってるのか?」

「失礼な。いくら食べても、俺の場合は頭の中に皺として増えてるだけだ」

「たしかに優介は頭良いよな」

「運動もね」

「そうだな」

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