可愛いと言わないで

可愛いと言わないで 6

昌平さんは優しく頭と背中をポンポンと叩いてくれた。

「そっか、優ちゃんは寂しいんだね」

なんで分かったのだろうと思っていたら、これまた優しく言い切られた。

「ここは大人しか居ないから、自分の居場所が欲しいんだね。使用人は優ちゃんの事をゲストとも思ってないし、『御』の気まぐれで子どもを1人家に置いてるという感覚でいるんだろうな」

すると昌平さんはしゃがみこんできた。

「ここで一番年が近いのは悟だからな。それでも年は離れてる」

昌平さんの口調が変わった。

「一つ、提案してあげよう。優ちゃん、今は本宅だけど離れに移らないか?」

「離れ?」

「離れには使用人は居ない。台所、風呂、トイレも付いてる」

悟さんの声が聞こえてきた。

「ああ、鯉の居る離れか」

「そうそう。優ちゃんさえ良ければだけどね」

昌平さんは優しく言ってきた。

「優ちゃん。その離れでは何もかも自分でしないといけないんだよ。掃除だけでなく、食べる物も自分で作るんだ。もちろん買物もしないといけない」

「僕……」

「本宅に居る間に、自分で食べる物を作れる様に練習しないとな」

「え?」

「だって、いつかは離れていくだろう。ここの子では無いから、いつかは出て行く」

その言葉で気が付いた。

「僕……、僕……」

「まあ、最初は鯉の世話からして貰おうかな」

「鯉?」

「エサをやったり池の水を綺麗にするんだ。まずは、それからな」

「うん。あ、はいっ。頑張りますっ」

「溺れるなよ」

「それは大丈夫」

「泳げるのか?」

「泳ぎは得意だから」

「そっか、そっか」

「鯉さんと友達になるから大丈夫」

「鯉は魚だ」

「分かってます、大丈夫です」

やっと昌平さんは離してくれたが、だけど悟さんは腕を引っ張ったままだ。

「悟さん、放して。さっきは、ごめんなさい」

そう言うと、悟さんは放してくれたので自分の部屋へ戻った。

「昌平……」

「優ちゃんは1人で寂しいんだよ。それはお前も分かるだろう。ただ優ちゃんは6歳で、お前と違ってグレる事も出来ない。そうだな……、道場にでも行かすか」

後になって昌平さんは、悟さんがこの家に来た時は寂しくてグレて暴走族の一員になって暴れていた時があったと教えてくれた。

そして、近場にある道場で護身術を習いに行くようになった。その道場で友兄を見かけたんだ。嬉しくて抱き付こうと走り寄ったのだけど、誰かに邪魔された。

「君はこっちだよ。あっちは少林寺だから危ないよ」

「え、しょーりん?」

空間なのに、壁があるみたいだ。

「あの、少しだけ見てても良いですか?」

「見るだけなら護身術の方を」

だが、その人の言葉は優介の耳には届いていなかった。しばらくすると休憩時間に入ったみたいで、水分補給している。

「カッコイイ……」

「護身術は少林寺と違って自分の身体を守る為のものだ」

「すると、護身術と少林寺は敵なのかな?」

「うーん……、敵か味方かと問われれば敵なのかな」

「そうなんだ」

友兄と同じ場所に居るのに、友兄は遠くに居るみたいだ。でも、友兄と同じ所に居る。そう思うと、頑張れる気持ちになってきた。自分の両頬を叩き、喝を入れた。

「よしっ、頑張るぞ」

『御』から守り役を頼まれた人物は、優介が道場を辞めるまで見守っていた。

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