可愛いと言わないで

可愛いと言わないで 69

料理も第二段のデザートが終わり、最後の第三段が出てきた。優介はパシャパシャと写メって食べるの繰り返しをしていた。自分のレパートリーにと考えていたのだ。

アナウンスが聞こえてきた。

「お食事に、ご歓談に、御寛ぎの所を失礼します。10分後には、ドンを含め、私設オーケストラ団の演奏を行います。ホールにて行いますので、興味のある方は、お越しください」

その言葉を聞き、『御』は楽しそうに呟いてる。

「ほう。楽しみだな」

悟さんの姿が見えなくて探そうとしていた優介の耳に、再度アナウンスの声が聞こえてくる。

「飛び入り、大歓迎です。それでは、日本からのゲスト。サトル様です。バイオリンを弾いてくださるそうです」

その言葉に、自分の耳を疑った。

「え? サトル様って、悟さん? ど、どうしましょう……」

ふぅっと溜息吐いた『御』は優介に返した。

「あいつは目立ちたがり屋だからな」

サトルはソロで3曲を奏でた。

「サンキュ」

と言って、拍手をしてくれた人に投げキスを返した。

その後は、友兄率いるミニオーケストラが6曲を演奏してるのを聴いていた。すると、『御』が、とんでもない事を言っている。リクエストしてるのだ。

「さすがだな。久しぶりだ、この曲に、この歌声。昔とは違う感情がこもっている。優介、ボスは、何と言っても声が良いんだよ。続けてもう1曲してくれる。よく聞いておくんだ、彼の曲を。もう聴くことはないだろう」

歌が終わり、今度は友兄がピアノを弾く。それは、今まで何度も耳にした十八番の曲だ。

『A Whole New World 』

原曲を耳コピして自分風にアレンジした曲だ。いつもバースディパーティーに招待されると、必ずリクエストをして弾いてくれる曲だ。

その曲を聞いた優介は、まだ自分の父親が生きていた頃を思い出していた。

小さかった頃、子守唄だと言って、この曲を弾いてくれていた。観客はお父ちゃんと、自分だけだった。お父ちゃん、友兄は相変わらずお父ちゃんの事を思ってくれてるよ。だから、俺も一歩を踏み出す。いつまでも甘えてられないからね。

パースから帰国した俺は、修行の3年間が終わるまで残り1年9ヶ月をレストランで働いていた。

そして、今度は悟さんが和菓子にハマってしまったのもあり、俺はレストランで培った洋菓子風のお菓子を作る事にしたのだ。

俺の修業期間が終わるまでの1年半で、悟さんも頑張って管理栄養士の資格を取ってくれて、保健所での登録もスムーズにいった。

今度は自営業だ。

和菓子のお店。デザインや型起こしと味の調合は悟さんの担当で、それを焼くのは俺の担当だ。

なにしろ医学部卒業なので、細かい作業はお手の物の悟さん。丁寧に型起こしをしてくれる。しかも、ナイフではなくてメスだ。

「もう医者じゃないからな。宝の持ち腐れになるだろうなと思ってたが、役に立ってる」

「えー、医療器具を菓子作りに使う人って、悟さんだけだよ。でも、それって病院に返さなくても良いの?」

「良いんだよ。アメリカで働いていた時に買った物だから」

「日本だと?」

「返すよ。病院の備品だからと言われてな。でも、向こうでは自分で買い、自分で手入れするのが当たり前だ。どうしても日本と海外では物の価値感とか見方が違うからな」

「へえ、そうなんだ。日本だけだと物の考えが狭くなるって事だね」

「だけど、日本より向こうの方が危険な事態は多いからな」

「ねえ悟さん。お店の開店まで3ヶ月もあるから、一緒に旅行しない?」

「何処に行きたい?」

「んーと、フランス……かなあ」

一緒にフランスへ行き、美術館等を観たり美味しい物を食べたりしていた。思いっきり観光客になっていた。でも、ずっと悟さんが居てくれて頼もしかったのは言うまでもない。

フランス語は理解できて喋れるので問題ないのだけど、意地悪な悟さんはドイツ語で話しかけてくれる。フランス語で話し掛けてるんだから、日本語かフランス語で返してよね。

食事も美味しかったし、値段が高いのかどうかは分からないが、1ユーロは日本円で言うと120円弱だそうな。

それでも1ユーロあると贅沢をしなければ一日3食だけでなく、おやつも食べれるし酒も飲める。それを考えると、日本の物価って高いんだね。

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