可愛いと言わないで

可愛いと言わないで 70

そして、和菓子店も開店になり、バイトも雇える程に忙しくなってきた。だけど、DNAなんとやらが出来てからは、悟さんはあっちに入り浸りになってしまった。

なので、勝手に昌平さんに連絡して和菓子屋の仕込みを手伝ってもらっていた。

悟さんは、昌平さんが手伝う分には文句を言わずに、バイト料は払うと一言だった。バイト料が入りバイト料金の確認にOKした昌平さんは、毎日の様に入り浸ってる。

俺にとっても、毎日の様に研究所に入り浸ってる悟さんよりは、昌平さんの方が扱い易く気軽に仕事が出来るので楽しいのだ。

そして、9月下旬。

10月はハロウィン月間なので、和菓子もハロウィン用の季節限定物が顔を出す。去年と同じデザインにするかどうか迷ったが、悟さんに案を持ち掛けるとデザインの型起こしは作ると言ってくれたのでホッと一安心したものだった。

だけど、悟さんは型起こしを作ると、すぐに研究所へと入り浸る様になった。

最近は、全くと言っていいほど悟不足に陥ってしまっている俺に、昌平さんはある提案をしてくる。それが、定休日を利用してのハロウィンディだ。その提案とは、こういうものだった。

『Trick or Treat !! 研究所が良いのなら、和菓子屋は貰う!』

その言葉に驚き理由を聞くと、こうだった。

「なにしろ、悟と優介が恋仲だという事は、知ってるからね。あいつは、恋人である優介よりも、新しく出来た相手に夢中なんだから、もしかしたらこのまま捨てられるかもよ? だから、この店を貰って自分のモノにする。」

「ええ! そんな事を思ったことは無いですよ? ってか、昌平さん、誰が恋仲って?」

「あれ、知らなかったの? 皆知ってるよ~」

「み、みんなっ?!」

「そうそう、皆ね」

「それって、使用人達だけでなく、御や、隆星さん……も?」

「そうだよ~」

その言葉を聞くと両手で顔を覆って蹲ってしまった。その時、自分の思いを見透かされてる言葉が聞こえてくる。昌平さんの声だ。

「嘘だろ。 知られてしまっていただなんて。もう、あの屋敷には行けない。御にも隆星にも会う事は出来ない。と思ってるだろう。でも、お前等の関係を知ってても、あの連中は優介の事を好きなんだよ。だから、卑屈にならなくても良いんだよ」

昌平さんの言葉に驚きが隠せないでいると思わず抱き付いていた。

「昌平さん、ありがとうっ」

そんな俺の頭を撫でながら昌平さんは思わず口に出していた。

「お前は、ほんとに天然だからな。皆がほっとけないんだよ」

「誰が天然ですって?」

「優介の事だよ」

泣き怒りの表情をして頬を膨らませる俺に、昌平さんは微笑んでいた。

「で、どうする?」

思わずキョトンとしてしまった。昌平さんは俺の膨らんだ頬を押さえ口を窄ませて再度声を掛けて来る。

「んっとに、それだからほっとけないっつってるんだよ。悟をポッと出の研究所に取られて良いのか?」

「ううん、良くない」

即答の言葉を貰って、昌平さんは安心したみたいだ。

「和菓子屋を乗っ取る事はしなくても良いから、そうだな……。優介を不安にさせて泣かせたんだ。その償いはして欲しいよな」

暫らく考えていた昌平さんは、ぶつぶつ呟いてる。その呟きに反応した俺は顔を上げて、その呟きに呟きで返した。

え、オーストラリアって、友兄のとこ?

昌平さんは、ジェットを飛ばせば数時間で着くからと応じると、俺は嬉しくなった。

「それじゃ、悟へのお仕置きは」

「お留守番ですね。でも、お仕置きにはならないかもしれませんね……」

だが、昌平は精神的なお仕置きになると確信していた。

 

そして、いよいよ明日からは、優介だけが休みを取る連休が始まる。

オーストラリアへと飛び立つ日。その前日も、昌平さんと一緒に店を切り盛りして頑張って働いてると、閉店間際になって悟さんが表から入って来たのを目にして驚いていた。何やら怒ってるみたいだ。

「優介、これはなんだっ!」

悟さんが手に持ってるのは、表に張り出していたバイト募集のお知らせだ。

『期間限定! バイト募集 2週間だけでも、和菓子屋でバイトをしませんか?』

そう書いてる紙を、悟さんは俺の目の前に突き出す。

「バイト募集のお知らせですよ」

「だから、なんで募集するんだ? しかも、2週間って」

「煩いですよ。お客様の邪魔です」

「どこに客が居るって?」

「俺が休むのだから、その間はバイト必要ですよ」

「優介、お前は何を考えて」

「でも大丈夫ですよ。明日から俺は休むけどバイトは来ますので」

悟さんは何か他の意味を読み取ったのか黙り込んでしまった。

すると自動扉の開く音がする。

「こんにちは~」

「こんにちは、いらっしゃい」

「店長、こんにちは」

「弘毅君か、こんにちは」

「なんか、店長を見るのは久しぶりですね」

「そうかな?」

「はい。土日も姿を見ないので、どうされてるのかなと思ってたんです」

その言葉に、悟さんは俺の方を見るが無視していた。

バイトで来ている弘毅君が思ってる程だ。優介も何かしら思ってる筈だ。だが、勝手な行動は許せない。

「弘毅君、売り上げ協力ありがとうね」

「美味しいので♪ それでは、店長、失礼します」

「ああ」

優介は何も言わずに閉店の支度をしている。昌平はと見ると、優介に近寄って何やらコソコソと話してる。その昌平との会話の中で優介が頷いてるのを見てると、今回の件は昌平が絡んでる事に気が付いた。

「昌平、話がある」

だが、長兄の昌平は無視してくれる。

「それじゃ優ちゃん」

「はい。ありがとうございました。お疲れ様でした」

「お疲れ~」

誰が逃がすかという気持ちで怒鳴ってやる。

「昌平っ」

「お前の話の相手は、優ちゃんだろ」

「お前にもあるんだ」

「私には無い」

そうきっぱりと言い切った兄に、悟は詰め寄っていく。そんな悟さんに優介は心を鬼にして言ってやった。

「悟さん、俺も話は無いです。それに、昌平さんは関係ないです」

「なら、どうして私に黙ってこういう事をするんだ?」

その言葉に思わず溜息を吐いていた。

「最近は働き過ぎで2日間だと疲れは取れないんです」

「優介っ」

「それに、平日は週末に比べると売り上げが少ないですからね。そういう時に休み」

「今月はハロウィンで売り上げは良い筈だ」

昌平さんは、その2人のやり取りの間に姿をくらましていた。昌平さんが居なくなったのを見届けると、悟さんを店から追い出し表のシャッターを下ろしながら言ってやる。

「とにかく、明日から月末まで俺は休みますので」

「優介、お前は」

「お休みなさい」

そう言って、シャッターを完全に下ろすと鍵を掛けた。

悟さんは裏からでも入れるし、隣の研究所や道場からでも入れる。それは優介も知ってる事だ。案の定、裏から入ったのだろう悟と、リビングで鉢合わせた。

「あれ、悟さん。今夜は、研究所は休みですか? いつもは1時過ぎに帰ってくるのに」

「お前は何をしてる?」

「見れば分かるでしょう」

「他人のコンピュータを覗き込んで何をしてるっ」

「これは、俺のです。悟さんのは自分の部屋でしょ? 今日の収支を入力してるので、さっさと研究所でも何処にでも行ってください」

その言葉にぶち切れた悟は、優介を殴っていた。

パンッ!

「ったいなー。何を」

「今、なんて言った?」

「悟さん?」

「ここは私の物だ。お前に何かを指図される云われはない」

「なら」

「昌平よりも、お前に先に話して貰おうか」

「何も話すことは無いです」

「優介」

「言っておきますけど、そんなに睨んでも迫力は無いですよ。よしっ、OKと。」

コンピュータの電源を落とすと、夕食を作る為にキッチンに入っていく。その後ろを悟さんが付いてくるのは分かっていた。

だが、いつもの習慣で自分だけ先に食べて、残りはラップを掛けて冷蔵庫に入れていた。それを見た悟は我慢の限度にきていた。

「なぜ、私のは無いんだ?」

「え? ああ、ごめんなさい。いつもの習慣で、つい。作ってても食べてくれないので、明日の自分のお昼ご飯に食べるつもりで冷蔵庫に入れてしまった」

その言葉の意味に、奥深く潜む意味に気が付いても良かったのに、悟は気が付いてなかった。だが、悟は優介に手を掛け、そのまま床に押し倒していた。

「悟さん?」

「その天然ぶりが鼻につく」

「まったく、昌平さんといい、悟さんといい……。誰が天然だって」

「お前が、お前があの屋敷に連れて来なければ、こんな気持ちにはならなかったのに」

その言葉に傷ついた優介は、涙を堪えて言っていた。

「今日は、悟さんと会話が出来て嬉しいな。いつもは朝食の時だけだからな」

優介の思いを込めて言った、この一言。悟には、まだ届いていなかった。

悟の心には、優介の言葉の意味が届いてない。それはそうだろう。自分には何も知らせず、黙ってのバイト募集に有休取り。それに、昌平とのひそひそ話。ある意味、取り残された感じを受けていた。

バイトで来ている弘毅も言っていた「土日も姿を見なくて」という言葉。しかも、先程の優介の言葉の意味。

「いつもの習慣で、つい。作ってても食べてくれないので、明日の自分のお昼ご飯に食べるつもりで冷蔵庫に入れてしまった」

気が付いても良かったのに、気が付き始めていたのに。

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