車はハーフ君の家に着く。エントランスホールに入ると直ぐに手洗い所が目につき、勝手ながら手洗い所に入り手を洗って、中に入る。福岡の屋敷を小型化した建物だが、品の良さが分かる。
お邪魔します、と友は声を出した。
それを見た豊は友をリビングに通し、ウェルカムドリンクを使用人が手渡してくれる。友は、ありがとうございますと使用人に言うと部屋内を見回してる。
「福岡の小型版?」
「んー、小型というよりも、ここは自分の家だから。あっちは親のだからバカでかいだけ。」
「へー……。こっちの方が親しみやすい感じだな。」
「ありがと。そう言ってくれると嬉しいな。ねえ、友。色々と聞きたい事がいっぱいあるんだ。これから聞くことに答えて。」
「不必要だと思ったら言わないから。」
「それでも良いよ。なんで、福岡でなくて東京なの?」
その言葉に溜息付いて言ってくる。
「そっからかよ……」
「今更だろうけど、入学してからこっち話らしい話はしてきてないからね。教えて。」
「あそこは、福山さん福山君は大勢居たからな。テストしても、張り出されるメンバーと順位は変わらない。それなら、東京に行こうと思っただけだ。」
「他にも学校はあるじゃない。」
「近くに親が居るのと居ないのとでは大いに違うからな。」
「で、東京?」
「そ。東京で生まれ11年間育ったからな。」
「いつ受験したの?」
「夏休み。」
「え?」
「3年の時の夏休み。珍しく香織が受験勉強してるから邪魔しない様にと思って、こっちに来たんだけど。夏休みの間に受験して受かった。」
「そうなんだ……」
「香織は私立で金掛かるけど、俺は国立だったから。『あんた達は何時まで経っても足して2で割ると丁度良いよね』と、お母ちゃんに言われた。」
「あははっ。小母さんらしい。」
使用人が来た。
「失礼致します。紅茶とケーキを置いておきます。どうぞ、ごゆっくりなさって下さい。」
「ありがとう。」
友も、お礼を言ってる。
「ありがとうございます。頂きます。」
使用人の顔がほんのりとだが紅潮したのを見ると、なんか嫌な気分になった。
「で、友。お前、今はバイトって、何をしてるんだ?」
「え?」
「その、この間っていうか、正月明けは知らないとはいえ、邪魔してしまって申し訳ないと思ってるんだ。ギャラが安くなってないか、不安で……」
「ああ、あの着ぐるみは1年間でいくら、と決まってるから大丈夫だ。ところで、なんでお前はあそこに居たんだ?」
「イタリアに行って帰ってきたばかりだったから。」
「なるほど、それで空港ね。」
「悪かったな。」
「別に、もう終わったことだしな。」
おっ、このケーキ美味いと言いながら、友はケーキに手を出し美味しそうに食べてる。
「紅茶、お代り貰っても良いかな?」
「良いよ。」
ふいに友から話しかけてきた。
「で、いつから田園調布に家を持ってるんだ?」
「え?」
「ここ最近?」
「5年位前かな……」
「そうなんだ。」
「新しいから?」
「ああ。車だったから分からないけど、田園調布のどこら辺?」
「どこら辺と聞かれても……」
「駅の方?」
「いや、駅には車で20分位かな?」
「そう……」
「友?」
「今は、お父ちゃんのマンションだけど。元々、駅の方の近くの一軒家で暮らしてたんだ。」
「え、田園調布の駅の近く?」
「ああ。」
「田園調布は、庭か?」
「いや、そこまでにはならないね。」
「懐かしい?」
「ああ、懐かしいね。なにしろ4歳児までは、よく虐められたからな。」
「福岡に転入してからも虐められたしな。」
「そうそう。でも、あれからなくなったし不気味だね。何を思ってるのか、さっぱりだ。」
「優三郎は、話しかけたそうにしてるぞ。」
「優三郎……」
考え込んでいる表情に溜息が出る。
「はあっ、お前ね。いい加減に名前覚えろ。1年の時は、お前の左横に座ってただろ。」
「ああ、あの根暗な奴ね。」
「なに、そのボキャブラリーの貧困さ。それでよく学年トップに居座ってるよな。」
「そっちもな。」
ある意味、愚痴大会になっていたが、それでも嬉しかった。見てないようで、見てるのが分かり友に言っていた。
「友、お前は好きな奴居るのか?」
「は? いきなり、何?」
「部活作業中、女子から熱い視線を受けてるだろ。」
「ああ、悪いが女子には興味ない。」
「へ? なに、それ……。って、お前まさかホモ」
「シャラップ!」
「違うよな、ああ驚いた。」
「今は学校とバイトだけで十分だ。」
「……友、はっきりと言う。」
「なんだ?」
「お前が好きだ。だから」
叩かれた。
「ってぇ。なにも叩かなくたって……」
「ふざけるのはいい加減にしようね、ハーフ君。」
「何度でも言うぞ。お前が好きだ、お前が好きだ、お前が好きだ。」
「はいはい。お前は子どもか。」
「どうとでも言え。高校に入学してからずっとお前の事を見てきた。また、中学の時みたいに笑い転げて話が出来ると良いなって、何度思ったことか。何度でも言うぞ。お前が」
「ああ、友達としての好きか。」
「違う、そっちではない。」
「それなら知人? 仲間? んーっと、他には……」
「恋人とは思ってない。入学式の時、本当に驚いたんだ。もう、誰とも会わないだろうと思ってたから。それなのに、友と会っただけでなく優三郎にも会うし。挙句の果てには夏や隆一に良も居るし。こいつ等と一緒に居るのは運命なのか。そう思ったね。」
「いつもより饒舌だな。」
「言っただろ、お前と話がしたいって。ずっと話がしたかったって。それなのに、お前は目を合わそうとはせずに、話もしかけてこない。お前の本音はどこにある?」
「ハーフ君、お前は慣れない農作業をして頭をやられてるんだよ。静かに寝てろ。」
「お前だからこそ、まだ許してるんだ。」
「何を?」
「その呼び方。他の奴等だったら、即ぶん殴ってる。」
何やら違和感を感じた友明は、豊に牽制を食らわそうとしたのか言ってくる。
「ちょっと、近いよ。」
「当たり前だろ、キスしたいんだから……」
「は? 何言って……、ちょ、ちょっと」
友、お前が好きだ。
豊は高身長と体重を友明の身体に乗せてソファに押し付けると、友明の唇に己の唇を重ねた。
