豊は、友明と同じ大学で学部も一緒と分かったその日の夕方近く、偶然にも友明と門でバッタリと会った。そこで、友明を強制的に自分の家に連れて行こうとした。が、敵は強し。
「嫌だ、と言ってるだろ。」
「運命なんだよ、抗わないで。」
「どこが運命なんだよ! どけ!」
仕方なく、その場で友明の両足の間に、自分の足を割り込ませ股間を下から押さえ上げる。だが、合気道の師範をしている友明は、その豊から擦り抜けようとしている。
こうなると友明を寝転がして押し倒そうかと思ったが、こんな場所ではお互いが汚れる。そう思うと、友明の意識を飛ばさせる為に鳩尾を殴る。
だが、瞬時のところで避けられ、逆に腹を目掛けて蹴られそうになる。そこで避けたのが運のつきだった。
豊が避けるのと同時に、友明は飛び退いて宙返りでバク転を数回して道場の屋根を越えていき、売店等が並んでるショッピング棟の屋根に乗っかる。
それを見た豊は、友明の後を追う。
「友! 友明、待ってくれ。」
「じゃな、ハーフ君。」
「友っ」
そこに声が割って入った。
「へー、強いし、すばしっこいんだな。銀ピカ君も強そうだけど、それ以上に強いんだな。気に入った。村上洋一って言うんだ。よろしくな、友君。」
「スズメ君と呼んでやるよ。」
「ありがとっ」
友は、地上に降りると家に帰って行った。
割り込んできたスズメを睨み付け、友との邪魔をされた腹いせに殴りつけてやる。が、このスズメも、すばしっこい。動きが日本人とは思えない。ああ、中国人の血か。せっかく友と居たのに、邪魔しやがって。
戦闘態勢に入り、スズメを突いたり蹴ったり殴ったりし始めた。
スズメこと洋一は、いきなりの攻撃を受け躱していたが、相手が本気なのを見て取ると、逃げるようにして前転宙返りを数回して地上に着地すると東門に向かって走る。
東門に着く、その手前で少しだけ後ろを振り返ると、全身が痛みを感じた。
「ってぇ……」
いつ地べたに引っくり返ったのだろう、目の前には土だ。頭上から声がする。
「私から逃げれると思うなよ。」
「た、たんまっ。お宅、本当に強いよな。」
「何のつもりか知らないが、これ以上、友にくっ付こうとするな。」
「ほー。お宅は、あの友君が好きなのか?」
「ああ、好きだ。」
「友達として、だよな?」
「違うな。仲間であり、運命の人だ。」
「仲間と言われると納得出来るが、運命の人って。友君にとっては、はた迷惑だよね。」
そう口にすると、洋一は口を叩かれた。
「っ……」
うー、うーと口を手で覆い呻っていた洋一は、相手の目の色に気が付いた。
(こいつはヤバイ。優男に見えるが、戦士だ。)
すると、その優男は言ってくる。
「他人をじろじろと観察できるまでに痛みはなくなったみたいだな。」
「な、なんでそんなに?」
「貴様が邪魔するからだ。」
その冷淡な表情に物言いや態度。それはまさしく戦士であり、キャプテンの様な雰囲気だ。だから、我が身可愛さで洋一は言っていた。
「もう邪魔はしないよ。ごめんね。」
だが、優男は一言だった。
「ふん、我が身可愛さ故の保守的言葉か。」
初めて言葉に詰まった洋一に、ずけずけと言ってくる。
「口先だけにならないようにするんだな。口は禍の元、という言葉を忘れるなよ。」
洋一は、初めて敗北感を味わった。こんな人間が居るとは思わなかった。さすが東京は凄いな。
