誰かに抱き付かれそうになった。
その手が伸びてくる寸前、転げ落ちる様に椅子から下りる。
「友、逃げるなー! なんで俺は居なくても良いんだよぉ……。拗ねてやる、いじけてやる。」
寿司屋が泣き真似をしている。
「トロを大皿に一盛りしてくれると、言い直してやるよ。」
その言葉に、他の3人は笑ってる。
「あはははっ……。夏には、まだまだ出来ないよな。」
夏は、手を包丁の形にして言ってくる。
「そういう事を言う子は、俺が捌いてやる。逃げるなっ! お前等、待てー」
廊下と教室を走り回っていると、バイクと医者の卵は捕まり、包丁代わりの手で裁かれている。
「残るは、あの2人だっ」
俺とハーフ君は、2人してアッカンベーをしてやった。
「簡単には捕まえられないよっ」と、俺が。
「捕まえられるものなら捕まえてみろっ」と、ハーフ君が。
そう言って、ベランダから飛び降りた。
「卑怯者ー。ってか、ここ5階」
俺は窓から降りると木の幹にしがみ付き反対側に隠れたが、ハーフ君は木に足をつけるとバク転をして屋上に飛び上がった。
なんか、楽しそうなメンバーだな。これからが楽しみだ。
俺は、香織とは違って虐められた事がある。だけど、今回はこいつ等がいるから大丈夫だ。お芝居はしなくても良い。
俺は東京の方に向いて、心の中で言っていた。
(康介。俺は大丈夫だよ。虐められても仲間が居る。康介も元気でな。)
風に乗って3人の声が聞こえてくる。
「豊ー。友ー。あと3分で授業始まるぞー」
ああ、そういう時間か。うーーんっと伸びをして、教室近くのベランダ目掛けて飛び上がる。それと同時に、屋上からハーフ君が見事な着地をする。
こいつには、合気道と少林寺だけでなく他の事でも相手にして貰おうかな。取り敢えずは合気道だ。
「たっだいまー」
と、2人が声を合わせてベランダから校舎内に入ると同時に、俺はハーフ君の踵を目掛けて踵落しを狙った。
すると、見事にべチャッ……と倒れた。
「隙ありー」
「ってぇ……。とーもー、この野郎、ヘッドキックかましてやろうかっ」
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン……♪と鐘が鳴ると先生の声が聞こえてくる。
『これから、午後の授業が始まります。今日も、残り2時間頑張ってね』
その校内アナウンスに「はーい、頑張りまーす」と返事をして小走りに教室に向かった。
ハーフ君は、俺の椅子を引っ張るつもりだったらしいが、俺は一つ前のハーフ君の席に座ってやる。ものの見事に、ハーフ君は俺の机にダイブする。腹を打ったみたいだ。
「このやろ。よく見極められたな……」
「甘く見過ぎだよ。」
あ、でも一つ前の席は『様』だ。その『様』君は俺を睨んでる。
「じゃ、自分の席に戻るかな。」
そう言って、俺はハーフ君と入れ替わって自分の席に戻った。
その後、虐めは無くなったが優『様』からは睨まれっぱなしだ。
小学校を卒業して中学に入学すると、マンモス校で一学年が10組もある。
俺は良、隆一、豊、夏と同じクラスに、香織とも同じCクラスになったが、優『様』は、違うクラスだ。
今度は登校班はなく、己だけで行く。小学校より15分ほど遠い場所にある中学校だが、皆と一緒に行くのでまだ迷わないでいれる。