それから週2日の割合で皆とスポーツを楽しんだ。
もっぱらヒロに腕を引っ張られてだったが、それも楽しかった。最初の内は30分もすると疲れて倒れ込んでいたのだったが、数ヶ月もすると1時間ぶっ続けてしても倒れなくなった。
ヒロは、そんな私の背に隠れるようになった。
日に日にリューゾーが力いっぱいに投げたり蹴ったりしているからだ。でも、それはリューゾーの本気では無かったのだ。
ある日、ドイツで開催される欧州の武道家による武術大会を観に行った時に、私たちには手加減していたのだと分かった。
だからか、ヒロは投げられるのを嫌がり、気配を感じるとリョーイチか私の背に隠れる。
そんなヒロが可愛く見えたものだ。たまにヒロの部屋で2人して寝たり、リョーイチも混ぜて3人で寝ていたりしていた。とても心が癒されていた。
そんな時、結婚の話がきた。
結婚なんてする気は無い。私の愛する女性はマドリーヌであり、大事な人はヒロなんだから。
それに、別邸で匿っている女性が居る。
あれから何年も経って、やっとその女性は心を開いてくれたのだ。
”あの時は死にたかった”
やはり自殺行為だったんだな。
そうでなければ、自分から進んで狩猟区域になんて入らないものだ。
だが、私は地面すれすれで撃ったので足を怪我しただけだ。死に至る事は無い。
その足も、もう自由に動けるようになった。だから言ったのだ。
「自由に動けるようになったんだから、ここから出て行け」
その女性は返してきた。
「マルク様、私は死にはしなかったけれど、今は生きてるのを嬉しく思っております」
「それは良かった」
「巷の噂では、マルク様はクールな御方だと言われてますが、何年も居る私は、その様に思わないです。貴方は、人を寄せ付けない所もありますが、とてもお優しい御方」
「私が? とんだ買い被りだ」
「いいえ。ご存知ですか? あの小さい男の子は貴方に懐いてる。それに貴方も優しい眼差しで見つめられてる」
「ヒロは姉の子供だ」
「それだけでは無い筈です。貴方は、その男の子を大事にしてらっしゃる。見てると分かります」
「何が言いたい」
「ただ、悪い癖は他人の話を最後まで言わせずに遮る所……」
「とっとと言わないと、この場でたたっ切るぞ」
「マルク様。私を、この命を使ってください」
「どういう意味だ」
その女は言ってきた。
「貴方が好きです。どうか、私をメイドでも良いので、ここで使ってください」
流石の私も、何も言えなかった。
黙っていると、その女性は言ってくる。
「この数年、こちらでお世話になりました。その恩返しをさせて下さい」
「いらない」
「私、自由に動けるようになったのです」
「なら、家に帰れ」
「いいえ、私は貴方の側に居たい。貴方の……」
もういい加減にしてくれと思い、部屋から出て行こうとドアに近付く。
「マルク様、どちらへ」
「しつこい奴は嫌いだ」
「申し訳ありません。マルク様に結婚話がきてるのは存じております。だけど、私は嫌です。あ、マルク様っ」
部屋のドアを開け言ってやる。
「覚えておくんだな。私はお喋りとしつこい奴は大嫌いなんだ」
そう言って部屋を出た。
まだキョージのお喋りの方が耐えられるが、女のお喋りは耐えられない。
翌日、その女を敷地から出した。
自由に動け歩けるようになったんだ。
「フォン・パトリッシュに縛られる事は無い。自由に生きるんだな」
「マルク様、私はっ」
目の前で門を閉めてやる。
門の向こうから大きな声が聞こえてくる。
「マルク様、お世話になりました。この御恩は決して忘れません。ありがとうございましたっ」