その女の声にイラつき、いつもの6人を引き連れて猟に行く。一番お気に入りの側付はフィルとジョシュア、次いでマティアス、シャルル、ヘンリー、ニコライ。この6人さえ側に居れば良い。
繁みの向こうに居るのは分かっている。
逃げられない様に足先を狙い、地面すれすれで撃ってやる。
ズキューンッ……!
手応えはあった。
すぐさま獲物の皮を剥ごうとナイフを手に繁みに分け入った。
すると、シカや小動物ではなく人間だった。
また女か。
まったく、なんで、こんな所に女性が居るんだ。だが、死なせたら大事だ。こんな狩猟区域に入ってくるなんて自殺行為にも等しい。ナイフをポケットに戻し、その女性を抱き上げ馬に乗せる時に顔を覗きこむ。
思わず呟いてた。
「お姉様……」
お姉様、マドリーヌ、生き返ったのか。
涙ぐんでしまい、自分の邸に連れ帰った。
そんなにも経たない内に、その女性は目を覚ました。
「ここは……」
ああ、声も似ている。
私に気が付いたのか、振り向いてくる。
お姉様、私に会いに来られたのか。
「え、嘘。ここって……」
「名前は?」
「あ、私よ、私。それとも忘れたのかしら。ねえ、マルク」
お姉様。
思わず、そう言いそうになった。だけど、お姉様は、こんな顔はしない。
心を鬼にして口を開いた。
「誰だ」
「まあ、そんなに怖そうな顔をして。そんなにお姉様に似てる?」
「何の事を言ってるのか」
「ふふっ、そういう所は相変わらずね。シスコン君」
私を、そう言う呼び名で言ってくる奴は1人しかいない。
「まさか、シェリー?」
「やっと分かったの。鈍いなあ」
こいつか。まったく、もう。
「家に送ってやる」
「えー、こんな足で帰っても何も出来ない」
「だから送ってやるって言ってるんだ」
「あ、分かった。私が居るとシスコン熱が上がって襲ってしまうからとかだったり」
「誰が、お前を襲うもんかっ」
「あ、襲うって言葉で思い出した」
「何だ?」
「家に泥棒が入って来て、それで逃げてきたんだよね」
「泥棒って」
「何も無い貧しい貧乏貴族の家に来るんだよ。何が狙いなのかねえ」
「だから帰りたくないと言うのかな」
「足がこうだから何も出来ない」
「なるほど。そのお転婆を直すには丁度良いんじゃないか」
そう言うと自由になる足で蹴られた。
「シェリー、お前は」
「こんなレディに向かって何を言うのよっ」
そう言えばシェリーは狩猟区域の事は知ってる筈だ。
「まさか、自殺行為で区域に入ったとか」
「まさかー、区域に入ったのは身を隠す為。それと、助けを呼ぶのなら区域に入った方が早いからね。ほら、ここに来るには入った方が近いじゃない」
「そうだけど……」
でも、シェリーの邸に泥棒だなんて、あそこは狩猟区域の守り役を兼任している。たしかに、あそこからここに来るには区域を通った方が早い。
「シェリー、馬に乗、な、何やってるんだっ」
「んー……。どんなになってるかなって思ってね」
「いいから布団に潜れっ」
「えー、自分の脚の怪我の様子を見たいのに」
ったく、こいつは。
思わずドキドキしていた。だって、女性の脚、生脚。しかも、こいつはスカートだと走れないし、蹴る事も出来ないし木登りも出来ないと言って、女なのにパンツを好んで穿く奴だ。
そのパンツを半分ほど脱いで脚の様子を見ているだなんて。私を男として見てないって事もあるのだろうな。泥棒というのが気になるのでシェリーの家に行ってみよう。
「シェリー……」
「何よ」
「私の撃った場所は足先の方だ」
「へ? それじゃ、パンツを脱がなくても良かったんじゃ」
「そういう事だ」
少しばかり考え込んでいたシェリーは、いきなり大声を出した。
「えーっ! 私の脚を、生脚を見たなあ。エッチ、マルクのバカー」
と雄叫びをあげているシェリーをベッドに残して、笑いながら部屋から出た。
見知らぬ女性ならとっとと敷地から追い出そうと思っていたのだけど、シェリーとはね。