それよりもサリーの事だ。
「サリーの事だが」
「ありがとうございます。あいつ等は、あの子を攫って来るように言われたようです」
「ヘル、それは」
「あの子には、”母親は病気で亡くなった”と伝えて下さい」
「だが」
「最近、ガンが見つかったのです」
「え?」
「苦しみ死んでいくのを見るよりは、まだ良い」
ヘルは泣き顔に、泣き声になった。
「あの子には言ってないんです。言えば、あの子の将来を潰してしまう。ここに縛り付ける事は出来ません。あの子もそうだが、サリーもイギリス人なんです。同じ死ぬのならイギリスで死なせてやりたい」
何も言えずに黙っていた。
「ああ、そうだ。マルク様、あの子には、こうお伝えください。”母親は、サリーはイギリスで事故に遭い死んだ”と。その方が良い。お願いします」
「ヘルが、それで良いなら」
「はい、お願いします」
何となくだが、ヘルの気持ちが分かる。
だけど、他の問題がある。
「ところで、この6人はどうすれば良い?」
「んー……、区域に放りますか?」
「良いのか?」
「骨も残らず食べられる事でしょう」
「区域でも、自然区域の方か。とんでもない言葉を守り役が言うものだな」
「こいつ等に罪はないが、せめてもの気持ちです」
ヘルは強い口調で言ってくる。
「終わりましたら、ご報告に行きます。お戻りくださいませ」
ヘルはサリーの身体を触っている。
どんなにサリーに抱き付き、また触りたいのか、それが分かった。そうか、泣きたいのかと思いあたり、「報告待ってるよ」と言って、自分の邸に帰った。
その6人は後ろ手に縛られ猿ぐつわを噛まされた状態で、自然区域に立たされている。
直ぐに気が付いたのだろう、獣は臭いを嗅いで近寄ってくる。
その内の1人が走る。
だが、獣の方が早い。
走っている足がもつれ転げる。
その瞬間、痛みがきたのだろう。
だが声を発する事も無かった。
目を大きく見開き、顔は恐怖に引き攣っていた。
残り5人も走ったが、獣に後ろから横からと噛み付かれた。
私の愛する妻を犯しただけでなく、死なせてしまった。
その償いは、死しかない。
東の守り役のフォン・パトリッシュ。
私は絶対に許さないからな。