誰にも知らせてない事があった。
マルクとシェリーが結婚した事を知ってるのはお互いの肉親だけだった。
「ふふ、マルクと結婚だなんて夢みたい」
「夢じゃないよ」
「私を”お姉様”と呼ばないでよ」
「シェリーは、お姉様とは似てないよ」
「なら、良し」
ハネムーンなんてものは無くていい。
そう言ったのはシェリーだ。
なにしろ足が動かない。だから、イギリスに4日間だけど2人っきりで過ごした。元々、私たちは2人ともイギリス人だからパスポートなんて要らない。
イギリスで生まれたシェリーは、私に食事を作ってくれていた。
しかし、一番の難関は入浴だ。
使用人なんて連れて来てないので、私が入れてやるつもりでいた。
「シェリー、風呂はどうする?」
「入るよ」
言葉が重なった。
「一緒に入ろうか」
「一緒に入らないからね」
「あははっ、エッチなんだから」
「一緒に入らなくて、誰が面倒みるんだ」
「変な事をしないでよ」
「大丈夫だよ。怪我人に意地悪しないから」
「先に入るね」
「だから、一緒に入るんだろ」
ブツブツと文句を言っていたが、シェリーの服を脱がせ風呂場に入れてやる。
その後、自分も手早く脱ぎ中に入る。
「シェリー」
「ちょ、っと…」
「綺麗だ」
「え、何が…」
シェリーは手で身体を隠しそうとしているが、そういう恰好はそそられるものがある。
だけど、我慢した。
風呂から出てからだ。
風呂から出るとバスローブを羽織らせ、そのままリビングの椅子に座らせる。
飲物を持ってくるとシェリーは笑っている。
「何が可笑しいんだ?」
「だって、マルクが誰かの為に飲み物を持ってくるだなんて」
「シェリーじゃなければしないよ」
「いつも傅かれてる王子様は、私には弱いってか」
その言葉に対して何も言えなかった。
「図星かあ」
笑いながら言ってくるシェリーに苦笑しか返すことが出来なかった。
違うよ、シェリー。正しくは、こうだよ。
”君が、マドリーヌ姉様と似ている顔をしているから弱いんだよ。”
でも言わない。
言ったら、いつまでもネタにされるだろうなと分かってるから。
ハネムーンも終わり屋敷に戻ってきた2年後、シェリーは男児を産んだ。
その子はドイツで生まれ、ニールと名付けられた。
ヒロとアンソニーとエドがニールをベビーベッドの上から覗き込んでいる。
「可愛いねえ」
「ぷよぷよだ」
「マルクも、お父さんだな」
アンソニーは私の直ぐ上の姉ナンシーが産み、帝王学を学ばせるために連れ帰ってきている。
エドは私の従弟で、今はツアーが休みなのでドイツに戻って来ている。
リョーイチは日本に、キョージはリョーイチを慕って日本に行った。
煩いのが居なくなって清々していた。