そんなある日、アンソニーが一通の封書を持って来た。
「マルク、これ見て」
「なんだ?」
「僕の勘だけど、ヒロは、その封書の差出人の所に居ると思う」
「どういう意味だ?」
「何処を探してもヒロが居ないんだ」
「え、居ない?」
チャーチかと思ったが、それは無いだろう。
なにしろ敷地外に勝手に出るとド―ベルマンの群れの中に放り込まれると知ってるからだ。あの時から敷地外に出る時は、必ず私に言ってくるから。
誰宛てなのか、また差出人も誰なのか分からない。アンソニーの言う通り、ヒロの事なんだろう。
封を開けると1枚の写真だけが入っていた。
猿ぐつわを噛まされ手を縛られて、頬を殴られた痣が見受けられるヒロが映っていた。
「ヒロ……」
誰だ、こんな事をする奴は。
腹が立ってきたらアンソニーの声がした。
「マルク、裏に何か書かれてるよ」
「え、裏?」
「これって何処の文字なんだろう……」
アンソニーは色々な文字を知ってるが、アンソニーの知らない文字なのか。写真を裏返すとルーン文字で書かれていた。これは、アンソニーには難しい文字だな。
だが、相手が分かった。あの野郎、よくも私の大事なヒロに手を出したな。
お気に入りの側付6人に声を掛けカールの別邸へと向かう用意をしていたら、背にパックバッグを掛けたアンソニーから声が掛かる。
「マルク、僕も」
「駄目だ」
「だって」
いつぞやリューゾーがヒロに向かって言った言葉を出していた。
「ヒロを守る為に鍛錬を怠るな」
その言葉にアンソニーは素直に従った。
「分かった。ヒロを連れて帰ってね」
「ああ、待ってろ」
「約束だよ。気を付けて行ってらっしゃい」
監禁されてる場所は鬱蒼と木々が茂り、道らしき道も無い。
獣道しかない。
そんな場所に、その別邸はあった。
1階には暖炉付きのリビングがあり温かそうなんだが、ここは2階の部屋。薄暗く窓も高い位置にあり寒くて暖の取れそうな物はない。そんな部屋で博人は相手を見上げる事しか出来なかった。
顎をくいっと持ち上げられ覗き込まれる。
「ふ。こんなにそっくりとはな」
今の自分に出来る事は睨み付ける事だけしかない。だから相手をキッと睨み付けてやる。
「勇ましい事だな。いいか坊主。お前はアイツをおびき出すエサだ。大人しくしてたら、殴られる事も無いんだからな。いいか、エサらしく大人しくしろよ」
あいつを殺して領主になる事が自分の夢なんだが、それが無理なのは分かっている。まだ『御』が健在だからだ。あの人が死んでマルクが跡を継いでも殺すチャンスはある。だから、ここで致命傷になりそうでならない程の怪我をさせれば良い。片目が良いな。それともやけどを負わすのも有りだな。暖炉に突っ込むのも有りだが、あいつは隙がありそうでないからな。
手か足でも良いな。
シェリーの居所が分からなかったのだが、マルクの所に居る事が分かってから機会を伺っていたのだがガードが固い。固すぎて隙が無いので拉致ることが出来なかったのだ。
だから、このガキを拉致ったのだが。
こんなにもマドリーヌに似てるんだ。
あいつは来る。
あのシスコンの塊は絶対にな。
だが、この男はシェリーの容姿がどんなに変わったのかを知らなかった。
知ってるのは息子であるカールとマルク、それとシェリーの父親であるヘル・グスタフォーの3人だけだった。