一刻ほど馬を走らせると件の別邸に着いた。
相手はカールだと思っていたのだが、どうやら違うようだ。真っ黒な馬が木に繋がれているのを見ると、カールの父親も一緒かと気が付いた。
まさかヘル・パトリッシュの方も一緒だとは思いもしなかったのだ。
「なるほどね。ヒロをエサにして私をおびき寄せて亡き者にしようという魂胆か。今は西の守りが居ないから容易く出来るというのを見せつけてるのか。私を甘く見るなよ」
カールでの父親であるヘル・パトリッシュは今か今かと待ちわびている。
息子のカールはガキのお守役として側に居させているのだが、マドリーヌにそっくりの顔をしているガキに手を出そうとしているのに気が付いてなかった。
猿ぐつわを外し唇に触れる、その一瞬だが自分の唇に痛みが走る。
「てぇなあ。大人しくしろ」
そう言うとヒロの腕を縛っていた縄を解き服を脱がせる。
そんな男にヒロは驚いていた。
「何する」
「ハスキーか。興奮させたら、イイ声になるんだろうな。もっと声を聞かせろ」
「やめっ」
「ショタ好きではないが、お前は別だ」
「嫌だと言ってるんだ。離せっ」
その叫び声が聞こえたのか、バタンッとドアが開く。
「カール、何をしてるっ」
「うるせえよ。俺はこいつと楽しんでるだけだ」
「ロリコンか……」
「そうじゃないけど、でもこいつはマドリーヌそっくりの顔だから」
「まあ、気持ちは分かるけどな。そいつはガキだ」
「あいつを殺そうと躍起になってるのは、あんただ。俺じゃない」
ヒロは自分の足も自由になったのだが、自分の身体に覆い被さって舐め回してくる男にボカスカと殴る事しか出来なかった。蹴る事も出来ない。せめて30㎝でも物理的に距離があれば、こいつを殴って倒せるのに。
マルク助けて。
そいつの手は長パンツと下着をずり下ろして舐めてくる。
それが嫌で大声を出していた。
「や……。やだー! マルク、助けてっ」
その声に反応するかのように窓が開いた。と同時に黒い影が2体、部屋に入ってきた。
側付6人の内の2人だ。その2人はヒロの上に覆い被さってる人物を蹴り上げ、ヒロを抱き上げると、まだ足から完全に脱がされてない長パンツと下着をずりあげ窓から飛び降りる。
それらは一瞬の出来事だった。
だが、完全に泣いていたヒロには分からなかった。
「マルク、マルク、マルク……」
声を出して泣こうとしていたら近くで声が聞こえてきた。
「ヒロ、何をされた?」
その声の主に抱き付いていた。
「ヒロ」
「マル……。こ、こわか……」
「ヒロ、大丈夫だよ。何があった?」
自分を優しく抱きしめ背中をポンポンと叩いてくれる。その掌と抱きしめられてる事に安堵を感じる。素直に言っていた。
「パンツと下着を脱がされて舐められたり、分かんない。でも怖かったの……」
「もう大丈夫だよ。帰ろう」
「マルク、来てくれてありがとう」
「無事で良かったよ」
ヒロには優しく言ったマルクだが、そういう事をするのはカールしかいない。
ヘルとカール親子、覚えてろよ。貴様等はパトリッシュから追放してやる。
カールの父親はしびれを切らしていた。
バタンッとドアを開ける。
「おいっ、マルクはまだかっ。いつまで待た……」
部屋の中に居る筈のガキが居ない。息子のカールは蹲っているが何をしているんだ。
しかも窓が開いてる。
「カール、ガキはどうした。もしかして、この窓から」
身を乗り出した父親は相手が居るのを見つけた。
「あ、居た」
その相手はガキを抱いていて、まさに馬を走らせようとしている。
「マルク様」
その声が聞こえたのだろう。
マルクは別邸に振り返ると窓からカールの父であるヘルが身を乗り出しているのが見えた。
「ヘル・パトリッシュ、この子は返してもらう」
「マルク様、外は寒いので中にどうぞ」
「構わん。直ぐ帰る」
「この寒い中を、お越しいただいたのに」
「私の用事は終わった」
「マルク様。その子どもはカールが勝手に手を出したのです」
「親子揃ってなすり付けるとはな」
「何を言って」
「もう一度、何かあれば容赦しないからな」
そう忠告するとマルクは馬を走らせ戻った。