いよいよ狩りの日が来た。
いつもの側付6人を私の周りに居させ、残り14人は要所毎に配する。
私自身に撃ってくる奴が居たら迷わず殺せと言っておく。
この側付は自然区域の獣を素手で殺せるから、狩猟時間が終わって人間が倒せなかった獣を倒す様に言う。
狩猟が始まる笛の音が聞こえてくる。
カールが何か言ってきてるのだが無視してやる。言い返したかったが、口を開くと罵声しか出てこないからだ。
グスタフォーにはヒロとアンソニーを押し付けて世話係にさせてきた。なにしろグスタフォーはワダと同じ文壇の知の塊だ。両方とも、良い刺激になるだろう。
カールの父親が狩ってるのが見える。
「あ、マルク様」
「成果はどうだ?」
「小物ばかりですよ」
「大きいのも良いが足を取られるなよ」
「御忠告ありがとうございます。マルク様の成果は」
「私は、まだなんだ」
「始まったばかりですからね。お互い頑張りましょう」
「ああ。じゃ、後で」
「はい」
他の奴等の居る所ではしてこないだろう。そう思い、わざと人気のない所に行く。カールが後を尾行してきているからだ。
そんな時、見つけた。馬から下りライフルを構える。
ズキューンッ……。
「ふう、やっと1匹目だ」
獲物を見に叢に入る。
「カール、そこでどうした? 私は、やっと1匹目だよ。こんな所に兎だ。可愛いな。逃がしてやりたいが他の奴等になるからな。抱っこしといてやる。逃げるなよ」
と、兎に向かって言ってやる。
「そんな優しい事を言ってると反対にやられるぞ」
「誰に?」と言いながらカールの方に向いてやる。
「お前にか?」と振り返ると同時に、カールの額に銃口を突き付けてやる。
カールの銃口は私の側頭部に狙いを付けている。
「どっちが先に撃つ?」
だがカールは黙ったままだ。
「マドリーヌとシェリーの敵討ち。それとヒロを侮辱した。そのつもりで今回の狩りを決めた」
カールは目を見開く。
「カール、聞いてるのか?」
だがカールは小声で呟いてるのか、声が聞こえてこないので言ってやる。
「カール、私だけでない。ヘル・グスタフォーも、お前を狙っている。グスタフォーには来るなと言ってるから、お前を撃つのは私だ」
カールの声が、やっと聞き取れるようになった。
「な……で、今頃、なんで」
「カール、お前を許さない」
「逃げろ、マルクッ」
「逃げろって。私の話を聞いていなかったのか」
カールはライフルを構え撃ちだしたので、そっちに目をやる。途端に目が釘付けになる。
「何だ、あれは…」
少しばかり茫然としていたら側付から声を掛けられる。
「マルク様、お逃げくださいっ」
「だがカールが」
「危険です」
それは私だけではないだろうと思いカールの名を呼ぶ。
「カール、カールッ」
「マルク、逃げろっ。そっちに大きいのが行ったっ」
「カール」
「う、うわあああっ」
カールは横から顔を出した大きい獣に横腹を咥えられた。
「カールッ」
「お……、俺を殺せっ。こいつに食われて死ぬより、撃たれて死ぬ方が良い。誰でも良いからっ」
目の前で、カールは獣に食われてしまった。
「ぎゃぁー……」
目の前で……。
昔は苛められていたが、こんな惨劇を目の当たりにするとは想像を絶していた。
「カール……」
「マルク様、早くお逃げくださいっ」
「しかし」
なかなか動こうとしない私に業を煮やしたみたいで、一番お気に入りの側付フィルに抱きかかえられ馬に乗せられると、フィルは馬の脇腹を蹴る。
途端に馬は走り出した。
「フィルッ」
「いいからお逃げくださいっ」