ヒロが日本に帰ってから、側付20人の内の1人が卒業したいと言い出した。
ウィルだ。
7位という位置に甘んじている。
甘えっ子ではないが、どうしてだ。こいつはアンソニーと一緒に裏をやっているので、裏のNo.1という、実際には力のある側付だ。
「マルク様」
「何故だ」
「お願いです。私は、挑戦してみたいのです」
「ここに居ても出来るだろう」
「自分の為に、もっと切磋琢磨したいのです」
「ウィルッ」
「ここには20人も必要ではありません。私は、今迄は甘んじてきた。だけど、自分の力を、外に出ても生きていける力を得たいのです」
「その為に、イタリアから教えに来て貰ってるだろう」
「あの王子は契約が切れたので、既に帰国されてます」
「それならフィルやアランと」
「あの2人は相手になりません。もっと強い相手とやり合いたいです」
「とにかく、駄目なものは駄目だ」
「マルク様っ」
「駄目だっ」
ヤリ手の側付に抜けられるのは嫌だ。
そんな時、ヘル・グスタフォーからイタリアと隣接した私有地に、何者かが侵入していると情報を貰い、そいつを捕獲するようウィルに指示する。
「え、どうして私だけ」
「生きて連れて来るんだ。お前なら出来るだろ」
「マルク様?」
「お前は強いからな」
「分かりました。その代り、連れて来ると、先程の話は了承して頂けますか?」
「そいつの状態次第だな」
「生きて、傷も付けずにですか?」
「お前なら出来るだろう?」
「やります」
ウィルは2週間ほどで、そいつを連れて帰ってきた。
言われた通りにウィルは傷を負わせる事も無く、そいつを連れ帰ってきたので腹が立ち、そいつの腹に鞭をくれてやる。
ここドイツでは必修なんだが、私は苦手だ。ヒロと鞭でやり合っていても、私は逃げていた。その下手な鞭捌きで、そいつの背に傷を付けてやる。
「マルク様っ」
「煩い、お前は黙ってろっ」
だが、そいつは筋肉が付いており、その筋肉が邪魔だ。
だから脇腹にしたんだ。
「マルクさ、ま……」
そいつの意識が飛んでしまうほど、何度も何度も鞭を揮う。するとコツが分かってきた。
そいつの腿に向かって揮う。
「っ……」
初めて、そいつの声を聞いた。
この言葉は、イタリア語。
そうか、こいつはイタリア人か。
ウィルの声がする。
「え、この人ってイタリア人なのか……」
ウィル、お前は2週間も一緒で分からなかった筈は無いだろう。お前も同罪だ。誰が、ここから出すもんか。
ビシッ!と、張り詰めた音が聞こえた。
ドサッと音がしたのは、そいつが床に倒れた音だ。
「マルク様、人殺しは止めて下さい」
「ウィル、貴様は誰に物を言ってる」
「マルク様の手は、医者の手です。医者が人殺しなんて」
「煩いっ」
ウィルは躱そうと思えば躱せたはずだ。それが躱すことなく、私の鞭を受けた。
じっと見ていたフィルに声を掛けてやる。
「フィル、ウィルを連れて行け」
「どこへ」
「病院に決まってるだろ。その傷を治療してもらうんだ」
「はい、畏まりました。それで、その男は」
「こいつは、このまま放っておく」
「は、はい」
2,3日するとウィルは本宅にやってきた。
「マルク様、私の手当てをして頂きありがとうございます」
「私が手当てしたのではない」
「でも、マルク様がフィルに言って下さったお蔭で助かりました。ありがとうございます」
お互い、沈黙してしまった。