その沈黙を先に破ったのはウィルだった。
「マルク様、私の意思は固いです。どうか、私に世界を見て歩く事を許可下さい。お願い致します。私は、守りたい相手を傷付けることなく、また泣かせたくも無いです。私は自分の意思で決めたのです。だけどフィルには相談しました」
「フィルは何も言ってきてないぞ」
「私は自分で言いたいので黙って欲しいとお願いしたのです」
「貴様は」
「お願いです。マルク様はヒロト様と居られる時は和やかで優しくなれる。 それは、元々がお優しいからです。マルク様、私は世界を知りたいのです。 私たち側付にとってドイツに来た事はハングリーな精神がなくなりつつあります。それで良いと思います。ドイツで学んだ事を活かし生きていく事が出来る。それに、私は自分の生まれ育った場所に骨を埋めたい。そう思っております」
― 生まれ育った場所に骨を埋めたい。―
その言葉は、私の心を揺さぶった。
シェリーも、母親であるサリーと同じ場所に骨を埋めた。
「分かった……」
「マルク様」
「この私に理屈を言ってくる奴は居なくなれ」
「マルク様…」
「二度とドイツに来るな」
「ありがとうございます。御身、お大事に」
「ついでに、あの拷問部屋に居る奴も連れて行け」
「え、拷問部屋って」
「あのまま放りっぱなしにしてたからな」
「なっ、何て事をっ」
「とっとと行けっ」
その数年後、シンガポールのマフィアのドンとなったホワンはフィルに目を付けてたらしく、連れて行ってしまった。フィルも同行を望んだから、条件を出したんだ。
「約束して欲しい」
「はい、何でしょう?」
「死ぬなよ」
「マルク様……」
「お前に死なれると……」
「ありがとうございます。時々、顔を出しに戻って来ます」
「ああ、そうしてくれ」
そして、フィルに触発されジョシュアも行動に移した。
「ジョシュア……」
「脳外科医として勤務します」
「もしかして病院も決めたのか?」
「はい。アンソニー様がボスをされてるシンガポールの多国籍病院です」
「そうか、寂しくなるな」
「そう仰っていただけると嬉しいです」
「戻ってくるんだよな?」
「はい。3年契約です」
3年後、ジョシュアは一度は戻ってきたが更新して再度シンガポールへ行った。
その病院のボスはアンソニーで、ジョンを連れて行った所だ。
ジョシュアから連絡はあったが、ある時期になるとばったりと来なくなった。連絡が途絶えたので、シンガポールに居るフィルとジョンにジョシュアの事を調べる様にと指示を出した。
「ジョシュアって誰ですか?」とジョンから聞かれたのには溜息が出た。
だから写真を送ったら即座に返事が着た。
「脳外のジョシュアですね。同じ病院に勤務してます」
「そのジョシュアから連絡がないから調べろと言ってるんだ」
だが、フィルとジョンは手掛かり無しだとの返事だった。
2人揃って同じ言葉だなんて、どういうことだ。
アンソニーに連絡を入れたら、こう返ってきた。
「銃撃戦があり観光客やドクターも大勢死んでいる。調べるのに時間が掛かる」
銃撃戦だと?
ジョシュア、もしかして……。
いや、生きてる。
生きてるよな。
ウィルの事をフィルから聞いたのは、それから何年も経ってからだった。
シンガポールに3年滞在して、オーストラリアに帰国したと。
ウィル。
卒業した事を認めよう。
貴様なら強く生きていくだろう。