「ボスッ!」と、「マルク! なにを……」と、2つの言葉が重なって聞こえてくるので、それに応じてやる。
「安心しろ。麻酔銃の方だ」
ジェットは空中をホバリングしている。
「あのジェットを撃ってみろ。ここに居る奴らを全員、撃ち殺してやる」
カチッ、とスイッチを入れてジェットに告げる。
「タラップを降ろせ!」
タラップは、するすると降りてくる。
クリニックボスを担ぎ乗り込んだ後、リョーイチがタラップに乗りジェットに入ってくる。
叫び声が聞こえてくる。
「ボースッ……!」
その邪魔者に向かって言ってやる。
「安心しろ。コイツは生きてる。それにドイツに連れて行くだけだ」
機内では、リョーイチが心配そうに言ってくる。
「マルク。ボスは……」
「ボス、ボスと煩い。名前で言えないのかっ」
「昔から、ボスと呼んでたからな……」と、苦笑しながらリョーイチが言ってくる。
ったく、こいつは。
私室に戻り、ふぅ……と一息ついた。
何かが首に当たってる感触があるので振り返ると、見知らぬ奴が居る。
「貴様、どこから……」
「私はずっとジェットの中に居たよ。急に空に上がったから驚いたけどね」
「そのワルサーは……」
「これは私のだ。ところで、ボスをどうするつもりだ?」
「ふっ……。さて、どうしてやろうかな」
違う声が聞こえてきたと思ったら、シャッとカーテンが開く。
「タカ、一体何っ……、コイツはっ」
「ユウマ。コイツはボスを撃って、これに乗せてる」
「ボスを?」
口を挟んでやる。
「ふっ。ネズミは2匹か」
そいつらは話し合っている。
「ボスを捜しに行ってくる」
「ああ、ボスの側に居てくれ」
「分かった」
数分後、ユウマは倒れているボスと心配そうにボスを見ている学長とを見つけると、ボスの身体チェックをして彼らの側に付いた。
ワルサーを握っているネズミを観察してやる。
何となくだが、何処かで会った様な気がするのだが、どこだったかな。
「ネズミ君、何処かで会ったかな?」
だが、ネズミと呼ばれた黒髪黒目の男は黙ったままだ。
「ふむ、ネズミ君と呼ばれるのは嫌か」
話し掛けると無表情の男にニヤつきながらドイツ語で言ってやる。
『不細工君と呼ばれたいか?』
だが、黙ったままなので、今度はフランス語で言ってやる。
『真っ黒黒の助君。モンパルナスかサン・ジェルマン界隈に立たせると、その手の男どもが寄ってくるだろうよ』
相手は動じる事も無く、ドイツ語でこう返してきた。
『それは貴様だろ』
なるほど、こいつは日本語と英語だけでなくドイツ語とフランス語も喋れるんだな。