甥っ子コンプレックス

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だが、黒髪黒目のタカは昔に思いを馳せていた。

勤務先の病院でテロを起こされ、そのテロリストを一人でやっつけたのがきっかけだった。

「君の勇気さには感服したよ。これはドクターとしての嗜みだ。自分の身を守れ」

そう言われ、渡された物はワルサーだった。

「このような物、私には勿体ないです」と言ったのに、ボスが遮る様に言ってきた。

「ドイツ・ジュニア、ありがとうございます。彼の勇気ある行動は、この病院を守ってくれた。これからも、私達は益々ドイツへと貢献していきます」

その言葉に、ドイツ・ジュニアは応じてくる。

「うむ。ボス、よろしく」

そう言われたボスは嬉しそうだった。

「はっ!畏まりました」

そして、ボスは私に言ってきた。

「タカ。ドイツ・ジュニアからの気持ちだ」とそれだけだったが、心の声も聞こえてきた。

(受け取ってくれ。それは、病院の存続の為に必要なんだ。ひいては君の為にもなる)

なるほど、そういう事ね。そういった類の事は嫌だが、仕方ないな。そう割り切った自分は受け取ることにしたんだ。

「ありがとうございます。ただ、私は使い方が分かりません」

そう言うと、ドイツ・ジュニアはこう返してきた。

「それなら、私が教えよう」

 

そして、3日間。ワルサーの使い方を教えて貰った。

なるほど、学長やサメの銃と似たような物か。

そう思うと、近くの射撃場で練習する事にした。

ドイツ・ジュニアがドイツに戻るころには、スナイパーでも出来るかもしれないな。自分でも、そう思えてしまったほどだった。

射撃場では、動く的を10体全部に急所を目掛けて撃ち、残り10体には致命傷ぎりぎりの箇所に撃ち込む。

ドイツ・ジュニアは、口元を緩ませていた。

「流石だな。その調子で、自分の身を守れ」

「ありがとうございます。このご恩は決して忘れません」

「ああ、名前を聞いておこう」

「タカマサ・コバヤカワです」

「日本人か」

「はい」

「私には甥が3人居るが、その内2人は日本人だ」

そう言うと、ドイツ・ジュニアは黙ったが少し経つと微笑んで言ってきた。

「君は無駄口は叩かないんだな。元気で頑張れよ」

「ありがとうございます」

そのワルサーを完全に自分の手に馴染ませ、普段でも撃てるように携帯していた。

そして。

そのワルサーを、今は。

こいつに照準を定めている。

 

どんなに優しく接してくれても、あの笑顔に絆され銃の構え方や撃ち方を教えて貰っても、大学から慕っているボスとは比べ物にならない。

しかも、ボスに向かって撃った。

その事実は消せない。

許せない。

 

私は、お前から貰った、このワルサーで……。

お前を撃つ。

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