私を蹴り上げた犯人はヒロだった。
会えるのは嬉しいのだが、こういうのは止めて欲しいなと思いながら顎の下を擦りながら起き上がろうとして、痛む頭を横に振る。
うぅ……と呻いて、ヒロを見る。
「ヒロ。そいつを、こっちに寄越せ」
ヒロは、私を睨んでいるのか。聞いたことも無い声が聞こえてくる。
「マルク。お前は、こいつに何をした?」
「最初は、あの人に会わせようと思ったのだが。どうやら、そいつは何かを知ってる様だ。聞きたい事が、いくつかある」
「こいつに何を聞きたいんだ?」
「まあ、いい。お前も、エドも一緒にドイツに連れて行く。一石三鳥だ」
ヒロは憮然として言った。
「ドイツに連れて行ってどうするつもりだ? 爺さんは棺桶に入ったのか?」
「縁起でもない事を言うな」
「私は言ったんだ。『今度呼ぶ時は、棺桶に入った時にしろ』と」
エドは笑ってるが、私は、そんな事は知らない。
「私は聞いてない。ある書類に、お前がサインすれば済む。それだけの話だ。それに、お前のデータにアクセス出来ないから、色々な場所へ足を運んでいたんだ。エドの所に居るとは思ってもなかったよ。データぐらい開示しろ、ったく」
その呟きが聞こえたのか、ヒロはこう返してきた。
「腕の良いプログラマーが居るからな。そいつに任せてる。それじゃ、帰らせてもらう」
せっかく連れて来たんだ、誰が返すか。
「待て。そいつを置いて行け」
ヒロは譲らない。
「諒一は置いてってやるよ」
お前もしつこいなと呟き、もう一度言い放つ。
「その男もだ」
ヒロは即答だった。
「断る!」
ヒロと言い合いをしていたら、違う声が聞こえてきた。
「失礼致します」
その声に反応したのか、ヒロもそうだが私も声が聞こえてきた方を睨む。
睨まれた相手は顔を伏せているので分からないが、2人の視線を身に感じていた。その証拠に声が震えている。
「クルー達から損傷していると報告を貰いましたので、こちらに伺わせてもらいました」
クルーのリーダーだった。
「ああ。ドイツに着いたのか」
「はい。損傷された箇所を見させて頂きたいのですが」
「ヒロ、降りてこい」
そう言うと、さっさとジェットから降りてやる。