久しぶりにヒロを見かけた。
マドリーヌそっくりの顔だから間違える事は無い。あっちは私に気が付いてないみたいだ。
何処に行くのか黙って付いて行くと、チャーチに入って行った。
いきなり男性の声が聞こえてきた。
「今日も来たのか」
「お母様が死んで」と返してるのはヒロだ。
何を話すのか柱の陰に身を潜めて聞き耳を立てていた。
「寂しいってか」
「何も出来ないんだ」
「いいか坊主」
「僕は何をしたらいいの?」
「そうだなあ……。祈ることはしてるから、後は力を付ける事かな」
「力って……」
「喧嘩でなくて合気道とか少林寺とか、フェンシングでも良い。自分に自信を付ける事だな」
「人を傷つけるなんて嫌いだ」
その言葉に、数人の笑い声が聞こえた。
「誰かを傷つける為ではなく、自分自身の限界にチャレンジするもんだ」
「そうそう。むやみやたらと傷つけあうのでなく、こうやったらこうなる、とか計算しながらしていくものだ。坊主、お前は数学って嫌いだろ?」
そう聞いてきた男に、ヒロは即答していた。
「苦手……」
「やっぱりなー」
「頭を使え」
「数学なんてものは、ここをこうしたらああなって、でも、これをあっちに持って行ったら…と、摩訶不思議な物になる。そうなると、これがハマるんだよな」
「型にはめずに違う閃きが来る時もあるけどな」
「まあ、そん時はそん時さ」
そうか、ヒロも悩んでるんだよな。それもそうだ、私にとって最も愛する女性だけど、ヒロにとっては母親だ。
彼等の言葉に触発され声を掛けてやる。
「ヒロ、帰ろう」
ふいに声を掛けられ驚いたのか、こっちを振り向いてきたヒロは驚きの顔を向けてきた。
「え、なんで……。誰にも言わなかったのに」
聞き捨てならない言葉を耳にした。でも今は怒るタイミングではない。
他の男達は気が付いたみたいだ。
「え、マルク様?」
「なんで、ここに……」
ざわつくが、構わずにヒロに言ってやる。
「ヒロにとって母親だけど、私にとっては姉なんだ。だから一緒に悩んで乗り越えよう」
「マルク……、ありがと」
神父が近付いて来る。
「マルク様。当チャーチに足を運んで頂きありがとうございます」
めんどくさいのは嫌いだ。
「この子は連れて帰る」
「お知合いですか?」
「先日、亡くなった私の姉の子供だ」
「え、マドリーヌ様の……」
ヒロの手を握ってやる。
「ヒロ、帰るぞ」
「あ、はい」
そう言うと、何を思ったのか神父や男達に向かってお辞儀をした。
「あ、あの、今日は帰ります」
すると、皆は一斉に立ち上がるとお辞儀を返す。
「お気を付けて」
ヒロトは急に態度が変わった彼等を不思議に思っていた。
どうして、そんな事を言うの。いつもは「気を付けて帰れよ」とか「犬に噛まれるなよ」とか笑い飛ばしながら言ってくるのに。