一方、ヒロトは泣くまいとしていた。
真っ暗闇の中に、いくつもの双眸がこちらに向いている。
声を出せば襲ってくるだろう。
なぜ、こんな所に入れられたのか。
どうして右奥の部屋に入るなと睨まれていたのか、それが分かった。
これは勝手な事をしたお仕置きだ。
そう悟った。
もう自分勝手な事はしない。
たしかに、誰にも言わなかった。
もし言ったとしても誰かが一緒に居てくれただろう。
それか、外出禁止と言われただろうな。
だけど、マルクは怖い。
こんな所に一日も、23時間も居れない。
だが、マルクは知らなかった。
その50匹を含め、屋敷中のド―ベルマンは全てがヒロトに懐いていた事を知る由もなかったのだ。
なにしろマルクとは違い、ヒロトにはたっぷりと時間がある。屋敷中のド―ベルマン相手に頭だけでなく、腹もなでなでして遊んでいるからだ。
基本的にド―ベルマンは、自分に威嚇の目を向けてくる時に敵意を剥き出しにする。
相手が誰なのか分かったド―ベルマンは近付きもしない。それに匂いで分かるものだ。ド―ベルマンに限らず、犬は嗅覚が非常に優れているからだ。
ヒロトは身を縮こまらせ震えていた。
日本に帰りたい。
日本に帰るまでの辛抱だ。
どれ位の時間が過ぎたのか分からない。
気付くと、朝陽が部屋内を照らしているのか、熱さを感じる。
あれ、僕はまだ死んでないって事か。
23時まで、後どの位あるのだろう。
マルク、お願い。
早く来て。
僕、もう勝手な事をしないから。
だから、早く。
ねえ、ここから出して。
でも、もう少しだけ寝ていたい。
怖いのだけど、なんだか暖かい。