朝食時、執事は皆に聞いていた。
「ヒロト様をご存知ないですか?」
その言葉に誰もが首を横に振る中、マルクは返していた。
「私の部屋で寝てるよ」
「え、どうして…」
「昨夜、2人で話をしていたんだ。そのまま寝ちゃって」
「分かりました。その様な時は起こして連れて来て下さい」
「はいはい」
「本当に分かってらっしゃいますか? 夜更かしさせないで下さいね」
「分かってるよ。ごめんね」
だが、昼は同じ手を使えないだろうな。そう思い、サンドイッチを作って貰い、それを書斎に持って行く。
しかし、この量は多過ぎだな。まあ良い、ヒロが反省していたら出してやろう。
書斎に入り右奥の部屋のドアをノックして声を掛けてやる。
「ヒロ、起きてるか?」
やはり小声だと聞こえないか。
そっとドアを開けようとするが開かない。
力強く押し開けようとしたら、部屋の中に居る主がこちらを向いてくる。
ギラついてる目が、こちらを見ている。
やばいな、これは。
推測するに、ヒロは、このドアを開けない様に凭れているのか。
ヒロ、開けさせてくれ。
邪魔するんじゃない。
仕方ないので書斎に戻り、デスクの上に置いてる受話器を手に取る。
電話口に出た執事に「屋敷中のド―ベルマンを散歩させろ」と指示を出す。
暫らくするとド―ベルマンは敷地内をうろつき始めた。
勝手に部屋内に入ってこない様に庭へと続く入り口を閉め、ヒロが邪魔して開けさせてくれなかったドアに体当たりする事十数回で、やっと開いた。
溜息が出ていた。
「はあ……、疲れた。私も体力ないなあ」
ヒロッ!と駆け寄り見ると、微かだが血がこびり付いてる。
いつ、付いたんだ。
「ヒロッ、ヒロトッ! お願いだ、目を開けてくれ。お前まで失いたくない……」
左奥の部屋に置いてるベッドに寝かせ血を拭いて綺麗にしてやる。
かすり傷がある。
まさか、あそこに居た50匹は我慢していたって事なのか。
そんな時、書斎のデスクの電話機が鳴った。
「何だ?」
息せき切った執事の声が飛び込んでくる。
「マルク様、1匹足りませんっ」
「え?」
「どう数えても、ド―ベルマンは100匹しか居ませんっ」
「部屋内には残ってないぞ」
「え、それなら何処に行ったのでしょう……」
残りの1匹は、何処に行ったんだ。