ホテルでカンヅメ。
小説家としては、やってみたい経験だ。
双子の兄が仕事で大阪に行くので、一緒に連れて行ってくれるみたいだ。
でも、俺は自分の仕事をする。
振り回されるのはゴメンだ。
それに、新幹線に乗るのは生まれてこの方ない経験なので、その時点で俺はおのぼりさんになっていた。
ジーッと窓の景色を見ていた。
隣で寝ているのか、兄の真は静かだ。
品川駅から乗り込み新大阪駅まで3時間ちょっとの間、ずっと座っていた。職業柄、座りっぱなしには慣れている。
新大阪駅に着く前に、声が聞こえてきた。
「うー……、ケツいてぇ」
新大阪駅に着くと、真は迷わず構内を歩いて行く。
「真澄、こっちだよ」
その声に足を止め、あたりを見回すとグラサンを掛けたまま手を振ってくれている。どうやら俺は違う方向に向かっていたみたいだ。
近くに寄り声を掛ける。
「ごめん、ごめん」
「手を繋いでいれば良かったのだろうけれど、恥ずかしいから」
到着日の今日は日曜日の夜でも新大阪駅の構内は人手が多い。
「真澄、ここからは地下鉄に乗るからね」
「場所知ってるの?」
「うん、これでね」と、スマホを見せてくれる。
「なるほど、電車のアプリかあ」
「便利だよ」
「俺には必要ないから入れてないや」
「ネタになるかもしれないよ」
その言葉に、それもそうだなと思いアプリを入れることにした。
ホテルに着いたのは20時になろうとしていた。
「お腹空いた」
「同じく」
「コンビニで買おうかな」
「せっかくだからホテルの」
「ホテルだなんて高いよ」
「安上がりな奴」
「ほっとけ」
コンビニでお互い好きな物を買い、真の部屋で食べていたら、真はこう言ってくる。
「もうモデルしてないから良いけどさ」
「そっか、モデルって食べ物には拘りあるんだった。忘れてたよ、ごめん」
「まあ、良いけど」
「明日、真の仕事が終わったら夕食はホテルで贅沢しようよ」
俺の、その言葉に真は人なつっこい笑顔を見せてくれた。
「約束な」
「うん」