その夜、真が帰ってきたら言ってやろうと思い待っていた。
ガチャとドア開き鍵を閉める音が聞こえてくるので玄関先まで迎えに行ってやる。
「お帰り」
真は嬉しそうな表情だ。
「ただいまー」
「今日、会ったよ」
「幽霊に? 待ってな、着替えてくる」
幽霊ってなんだよと思いながら言ってやる。
「日下さんに」
そう言うと、真の足はピタッと止まるので、もう一言付け加えてやる。
「いつもの黒ゴムでなくてカラフルなゴムで纏めてあった」
その言葉で真は嬉しそうだけど、本当にと言いたそうな表情で振り返ってきた。
「本当に、して、くれてた?」
「うん、してたよ。プレゼントされたの初めてで嬉しかったのって言ってた」
「わぁーい! うれしー!」
ハグされてしまった。
元モデルのマコトの名残が未だに残る双子の片割れである真は、大人っぽいコロンをつけているのか。そんな香りがしてくる。
スーツは上質なもので、俺は男だという感じがする。
自分とは違う。そんな差が悔しくて引き剥がしてやる。
「どした?」
「着替えてくるんだろ」
「あ、そうでした。待ってて」
鼻歌を歌いながら部屋に戻った真が羨ましい。
俺も、行動力があれば。
女性物って高いよな。という言葉から始まった今夜の夕食タイム。
2つで5,000円というコーナーがあって、そこで買ったんだと教えてくれた。
1つはスタンダードに落ち着いた感じの赤紫一色でダイヤが散らばって付いている物で、もう1つは青地にピンク黄色オレンジのカラフル物。
彼女にプレゼントしたいからと言ってプレゼント用に包装してもらったんだ。
「すごく似合ってた」
「良かった、安心した」
「7ヶ月でそれだと、1年という節目もプレゼントするの?」
「うん、するよ」
「そっか、頑張ってな」
「ありがと~」
恋愛には疎い俺でも好きな人はいる。双子の兄の恋愛には口を出さない。両親の離婚のことがあるから、なおさらだ。
こうやって妄想したり想像を膨らませていくだけで十分だ。好きな人と話すのだって緊張するのに、これがデートだなんて無理だ。
親の離婚で俺は臆病になった。あの2人のせいで不登校になってしまった俺を、せめて中学は卒業しようよと言ってくれた真。
俺は中卒だけど、それは武器にはならない。今では好きな文字書きで金を貰えている。1ヶ月5,000円でも売れているのは非常に嬉しいんだ。
賭け事は好きでない俺が、今は投資に興味を持っている。ネタにもなると思って手を出したのだ。
「入金不要でFXや株ができるみたいで、登録するとクレジットボーナスで20,000円入る。」という謳い文句に惹かれたんだ。
さあ、やってみるぞ!
1週間で140,000円強の収益になったので出金する。
スマホでポチポチやっていると足音が聞こえてくる。
「なあ、真」
「悪い。これか」
ああ、この格好はもしかしてと思い言っていた。
「デート?」
「そそ」
「行ってらっしゃい」
「行ってきます。あ、帰ってきたら話聞くから」
「たまには朝帰りしてこいよ」
はっはっはっ……と笑っていたが、おそらく無理だろう。