日下さんと2人でレストランに入っていく。
デートでなく、真に会うんだと思っておこう。でないと緊張してしまう。
そんな俺を見て日下さんはクスクスと笑ってくれる。
「あ、もう居る。お疲れ-」
「日下さん。お疲れ様です。」
サラサラ髪のイケメン男子がいた。
「初めまして、マコトです。」
「は、初めまして。修です。」
マコトさんの笑顔は目に毒だ。俺が女子なら……と思って隣に目をやると日下さんは席に座ろうとしている。
「日下さん、逃げないでくださいよ。」
「大丈夫よ。食事を注文するから2人とも座って。」
店員を呼び注文する。
真っ先に声を掛けたのはマコトさんだった。
「嬉しいな。憧れの修先生と、ご一緒できて光栄です。」
これは誰だ。俺の知っている真でないことはたしかだ。まあ、中学を卒業してから会ってないからなあ。6年も会ってないと、こうも変わるものなのか。
ああ、なにも思い浮かばないや。質問を忘れてしまった事を悔やみながら、なにか話は無いかと焦っていた。
「えっと、マコトさんは学生ですか?」
「大学生です。」
「何年生ですか?」
「3年ですが、何か?」
「それなら来年は就職かモデルか悩むところですね。」
「あー、そういうこと。サラリーマンしようかなと思っているんですよ。」
日下さんが割って入ってきた。
「モデルは続けないの?」
「迷ってます。」
するとタイミングよく料理が運ばれてきた。食べている時は話をしなくてもいいから安心だと思っていたのに、声を掛けられる。
「修先生は、飲まれるのですね。」
「え……、ああ、お酒。はい、ビールでもなんでも飲みます。」
「いいなあ。日下さん、俺も良いですか?」
日下さんは一言だった。
「飲めないくせに。」
身も蓋もない言葉だったけれど、マコトさんはジュースを頼んでいる。それを見て思わず笑っていた。
「あの……」
「あ、いや、その。ごめんなさい。」
なんだかジュースを飲んでいるマコトさんを見て、力が抜けていくのを感じていた。
食事が終わりデザートを、それぞれが注文していた。日下さんはトイレに行ってしまったし、何を話そうかと思っていたら、忘れていた質問3つのうち1つを思い出した。
「あの……、マコトさんの本を書きたいのでインタビューしてもいいですか?」
「俺の? いや、でも……」
「困るようなことでもありますか?」
「照れます。」
「可愛いなあ。」
「修先生、どこかでお会いしたことありますか?」
「ナンパされてるのかな。」
「はは。初めて会うのだけど、どことなく親しみがあって。」
「それは嬉しいな。するとインタビューはOKということかな。」
「あー……」
マコトさんは考え込んでしまった。トイレから戻ってきた日下さんは、そんなマコトさんに声を掛けている。
「何を考え込んでるの?」
「修先生に」
「苛められたの?」
慌てて言っていた。
「違いますよ。インタビューしたいと言っただけです。」
「で、マコト君は何を悩んでいるの? 受けなさい。」
「ってぇ……」
ゴンとテーブルに当たった音が聞こえ、思わず言っていた。
「日下さん、力強すぎですよ。」
「インタビューして親睦深めなさい。」
そう言いながらウインクして、どこかに行こうとする。ちょっと待って、置いていかないでよと思い、追いかける。
「日下さんっ」
「兄弟の親睦、若者同士の親睦、どっちでもいいから。ね。」
そのウインクに俺はこう返していた。
「ありがとうございます。」