声が聞こえる。この声は誰だ。
「修先生」
「ん……」
身体が揺れる。
「起きてください。修先生」
「も、すこ……」
大声が聞こえてきた。
「起きろー!」
「はいっ!」
うー、眠いなあ。何なんだ。その思いが声に出ていた。
「なんだあ……」
「なんだは、こっちの台詞だっ」
「なんのことか……。あれ、マコトさん、もう起きたのですか? 早いなあ」
「なに寝ぼけて……。おさ、いや、真澄。お前、いつから知ってた?」
「は? ますみって何?」
胸ぐらを掴まれた。
「き・さ・まー……」
「こ、こわ……。マコトさん怖いです」
イケメンが怒ると怖い。しかもタイミングが良いのか悪いのか電話が鳴る。
「は、はい」
『修先生、おはようございます。山北出版の境です。3重掛かったので、ご報告の電話しました』
「3重? ありがとうございます」
電話を切ると再び掛かってくる。
「はい」
『修先生、おはようございます。JNA出版の佐々木です。依頼の件でメールしました』
「おはようございます。佐々木さん、お久しぶりですね。確認したら連絡しますね」
『よろしくお願いします』
電話を切ると、また掛かってくる。
「はい」
『修先生、おはようございます。川西出版の住田です。明日が締め切り日ですが大丈夫ですよね?』
「あー、できる限り今日中に納品します」
『お待ちしております』
マコトさんの睨み顔は普通の顔になり、胸ぐらをつかんでいた手は離れていく。
「そっか、普段から修先生呼びか。でも俺は違うからな」
「マコトさん、朝ご飯」
「飯よりもっ」
お互いのお腹が威勢良く鳴る。
「お腹空いた……。食べながら話をしましょう」
簡単で申し訳ないですと言って、炊き上がった白米と、野菜入りの具たくさん味噌汁を目の前に出す。
2人揃ってお代わりをしたほどだった。
「食ったー」
「マコトさん、吐き気は?」
「ないです。あ、それより修せ、いや真澄」
「どうして俺が”ますみ”なのですか?」
「どうしてって……」
「そんな女みたいな名前つけないでください」
すると沈黙が下りた。