どれぐらいの時間が経ったのだろう。
俯いていた真は俺の顔をまっすぐに見つめてきた。
「俺、朝は5時に起きてランニングするのが日課なんです」
ジッと見つめてくるのは、俺の返事を待っているのだろうか。当たり障りのない返事をしてやる。
「いいことですね」
「今日もしてきました」
「この辺りを?」
「はい。1時間走り、同じように走っている人がいたので世間話から、この家のことも聞きました」
またジッと見つめてくる。
「その人は……。中学を卒業したバカニートが1人暮らしして、いつの間にか敷地と家が狭くなり、そのバカニートは、それを売り金持ちになった。どのような生活をしているのか分からないけれど、そのバカニートは……。そいつの名前は……」
黙っているが、すすり泣きをしているのか、そんな感じだ。
「そいつは、瀬名川……、真澄だと……」
それは村瀬さんのことだろうか。でも、バカニートだなんて村瀬さんは言わないのだけど、おそらく、その単語は真が勝手に付けたのだろうな。
「どうして俺に何も言ってくれなかった? お前は、夕べ」
仕方ないな、村瀬さんのお喋り。
「日下さんは知っています」
「日下さんが?」
「日下さんが、俺を見つけてくれた。彼女を信じているから自分のことを話した。それだけです。他の人には話していません」
「真澄……」
そんな泣きそうな表情の犬顔はやめてくれ。
「俺は修です。小説家の修です。村瀬さんは警視庁の捜査課の課長さんで、俺が高校に通って無くても色々と面倒を見てくれた。俺が警察シリーズを書くきっかけを作ってくれた人です。その2人を悪く言うことは許しません。」
「俺が聞きたいのは、お前の本名だ。修がペンネームだというのは最初から知っている。」
「マコトさんは大学で何を専攻されているのですか?」
「マコトは芸名で本名は真だ。瀬名川真。それが本名だ。お前の双子の兄だ。」
誰が乗ってやるもんか。
「マコ、瀬名川真さん、あなたは大学で」
「俺のことはもういい。今度は、あんただ。あんたのことを知りたい。インタビューするのは俺で、お前はされる側だ。」
その言葉に思わず言っていた。
「それを言っている途中で昨日は寝落ちされたのですよね。」
「え? そうだっけ?」
頭が良いくせに、どこか抜けている。その性格は変わらないんだな。意識して名前を言ってやる。
「真さん。俺は自分のことを誰にでも話せる人間ではない。そのことだけは知って欲しいです。」
「うん。」
ちょっと待ってくださいねと言って、盆に食器を乗せキッチンに持って行く。
水とコーヒー豆をセットしていると目の前にカップが置かれる。とっても嬉しそうな声が聞こえてくる。
「俺はブラック」
「はいはい」
2人分のコーヒーを淹れるとダイニングに持って行き、話の続きだ。