同じ人を好きになったアイツと俺

兄が近づいてきたのが視界に入ってきたので手を振ってやる。

「たっだいまー」

「おかえり。仕事お疲れ様」

「なあ、中華行かん?」

「いいねえ。餃子食いたい」

「いいとこ見つけたんだ」

「俺もだよ」

2人の声が重なる。

「このホテルの近くに中華とパスタの店があって、その中華にしよ」

2人して顔を見合わせてしまい、笑ってしまった。

「なんだよ、それ。お前、仕事してたんじゃなかったのか」

「してたよ。昼飯買いにコンビニに行ったとき見つけたんだ」

「頑張って書けたとか?」

「たっぷりとな」

「よし。それじゃ奮発して奢ってあげよう」

「割り勘にしようよ」

「いいから、お兄さんに甘えなさい」

「後が怖そうだ」

エレベーターホールからロビーに出た途端、いきなりうるさい声が聞こえてきた。

「キャー。2人ともかっこいい」

「連れって言うから、相手は女性かなと思っていたのだけど」

「男とは」

「ねえ、私たちと一緒に」

「ダブルデートしましょ」

「私、こっちの人が良い」

その言葉と同時に腕を掴まれた。

「え、ちょっと?」

その女性が握ってくる力が半端なく強い。俺、ジムに通っているのだけど振りほどけないなんて情けないな。

今日しなかっただけで、ここまで劣るものなのか。

思わず叫んでいた。

「兄ちゃん、助けてっ」

「真澄っ」

双子の兄の真は学生時代モデルをしていたこともありルックスは良いんだ。人受けする笑顔でニコニコをキープしていた。

それが崩れると恐ろしいほど怖くなる。

同じ顔でも違いがあるので誰にでも分かるくせに、被害に遭うのは俺の方だ。

そんな真の弱点は意外にも俺だ。

名前からしてそうだ。

兄は真(しん)で均整の取れた身体をしており、俺は真澄(ますみ)でジムに通い始めて6年目のゴツい身体。

相手が男なら、すぐにノシているのだけど、女だから手を出さないだけだ。

しかも、俺より力が強いから振りほどけないというのもあるがな。

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